最後の誕生日

「明日から、一泊だけ家に帰れるよ」

ミミが私にそう言った。


「へ?」


「ほら……一度家に帰りたいって言ってたろ?」


急な激痛に襲われ、私はそのまま入院して今に至る。たった二週間程だけど、出来ればそのまま逝くのではなく、家にもさよならを言いたいと言っていたのをミミは覚えていたらしい。


「先生に相談したんだ。明日誕生日だろ?」

というミミに私は思わず目を丸くした。


「誕生日……何で知ってるの?」


「何回おばさんが書いてる書類を見てると思ってるんだよ」

とミミは苦笑いだ。


「あ、…そうか」


「外泊したいなら、折角だし誕生日が良いだろ?」


「え、ありがとう!自分の誕生日、全然忘れてた」



ただ、一泊するだけとはいえ、色々と準備は大変だった。私の使っている張り薬は麻薬。

ミミは、

「剥がしたお薬も絶対に病院に持って帰って下さいね!」と何度も念を押されていた。

飲み薬も全て飲んだ時間を記入しなければならない。頓服をどれぐらいの間隔で飲んだのかも。


ミミは看護師さんの話を熱心に聞いて、メモをとっていた。意外と真面目だ。


「ミミって真面目だったんだね」


「命に関わるから、当たり前だろ」

とサラッと言うミミは少しナーバスになっているようだった。



車椅子から支えられながら車に移る。

まだ、こうしてどうにか移動できるので今回の外泊は許可されたのだろう。




久しぶりの家はとてもがらんとしていた。


「ただいま~」

私は仏壇に手を合わせた。これも私が居なくなったら英二兄ちゃんにお願いしている。……ごめんね、兄ちゃん。


私の家は見事にバリアフリーではないので、ミミが私を抱えて移動する。


『重たいでしょ、ごめんね』なんて軽口を叩けるような体でない事は分かってる。

段々と薄くなる体にミミだって当然気づいているのだから、彼を困らせる様な事は言えないでいた。


「随分と物が少なくなったね」


「ちょこちょこ片付けてるからな」


応接セットのなくなったリビングは広々としていた。

私をダイニングテーブルの椅子にミミは座らせると、


「ちょっと待ってて」

と言って冷蔵庫から、お皿に乗せたチーズケーキを取り出した。たった一切れのチーズケーキに、三と四の数字を形どったロウソクを無理やり立てる。


「ぎゅうぎゅうだね」


「どうせワンホールは食えないだろ?」

とミミは微笑んで、そのロウソクに火を灯した。

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