知らなくて良い事
私が目を覚ますと、ミミは何かをそっと隠した。
「何か隠した?」
「隠した。でも今はまだ見せたくない」
ミミは素直だな。普通『別に隠してない』って言うだろうに。
「いつか見せてくれる?」
「もちろん。あ、喉乾かない?」
とミミはお茶を用意してくれた。ゴクゴクと飲めなくなった私はストローで飲むので、それをセッティングするのは、もちろんミミの役目だ。
私の細くなった腕には点滴の跡がある。ミミはそれを見ると少しだけ辛そうな顔をするが、表に出さないように気を使ってくれているようだ。
ミミは私にコップを握らせると、
「お茶無くなったから、買ってくるよ」
と財布を持って出て行った。売店はまだ開いている時間だ。
「ミミ、ついでに雑誌買って来て」
と私が声をかけると
「いつものな。分かった」
と私に手を振った。私の推しが載っている雑誌だ。ミミは良く知っている。
ミミはスマホを置いて行った様だ。
私はちょっとだけ好奇心が湧いた。
私の前では決してスマホをいじらないミミだが、彼は私が見ていない所で、どんな世界を持っているのだろう。
私はそっと床頭台に置かれたミミのスマホに手を伸ばす。
他人のスマホを勝手に見る事はルール違反。それは十分わかってる。
彼氏のスマホを見る事はご法度。そこに決して幸せはない。それも十分わかっているが、ミミは私の彼氏ではない。浮気を疑う彼女ではないので、神様、許して下さい。
私はミミのスマホを開こうとして、ふと思う。
(あ、パスワード分かんないや)と。
そう私はミミの事を殆ど知らない。誕生日でさえも。
私はフッと一人で笑う。誰よりも今側に居る彼は……本当は誰なんだろう。
しかし、私にとって『ミミ』は『ミミ』だ。それ以上でもそれ以下でもない。
私はミミのスマホをそっと元に戻した。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ミミがどんなエロサイトを見ているか、興味があったのにな……と思いながら。
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