願い
「俺はお役御免?もう必要ないって事?」
ミミは今度は静かに涙を流しながらそう言った。
「違う……。そうじゃないよ。確かに私、自分勝手だった。あの時はこんな事になるなんて想像もしてなかったの」
「じゃあ、どう思ってたの?」
「一人で死ぬつもりだった。でも、貴方を一人で死なせたくなかったの。咄嗟に思いついた事だったけど、ミミと過ごす時間が楽しすぎて、怖くなった」
私の頬も涙で濡れていた。
「何が怖かった?俺?」
「そんな訳ない。ミミに嫌われるのが怖かった」
「どうして?」
「私はどんどん自分で出来ない事が増えて、その度にミミにたくさん迷惑かけて……」
「正直に言ってもいい?」
ミミはまだ泣いている。ミミは私のベッドの側で床に膝を付いて私の手を握った。
「いいよ」
「迷惑って思った事はない。でも俺も怖かった。おばさんが……弱っていくの」
「だよね」
「だけどもっと怖いのは、俺の見ていない所でおばさんが死ぬこと。俺も同じ。おばさんを一人にしたくない。それが俺の生きる意味だから……それを奪わないで」
ミミは静かに涙を流しながら、握った私の手を額に付けた。
私はもう一つの手でミミの頭を撫でた。
ミミの髪の毛は黒くて少し硬かった。
「ごめん……」
「いつも『ありがとう』って言われる度に辛かった。『ごめんなさい』って言われた方がなんだか嬉しかった」
「なんで?ありがとうの方が嬉しくない?」
「ありがとうって普通は嬉しいのかも。でも凄く突き放されてるみたいに感じてた。これ以上立ち入らないでって。俺は……もっとおばさんの心の中が見たかったから」
「ふふふ。難しい子だね。『ありがとう』も『ごめんね』も同じ様に感じてたよ。ネガティブな事を言わないようにしてただけ」
「ネガティブでもなんでも良いよ。俺にぶつけて欲しかった」
素直になって、って事だったのかな……。
「じゃあ、私も素直に言うね。ミミの時間を奪ってしまう事は申し訳なく思ってるけど、出来ればミミに看取って欲しい。改めて、私が死ぬ瞬間に笑顔で逝けるか見ててくれる?」
ミミは布団に顔を埋め、私の手を握ったまま、何度も何度も頷いた。
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