何気ない毎日
朝起きて朝ご飯を食べる。私は朝からしっかり食べる派だけど、ミミは寝てる方が良いと言う。……勿体ない。
「起きた!起きた!もう昼だよ!!」
と私はミミの布団を引っ剥がす。
昨日は『死にたい』なんて言っていたくせに、ちゃっかり朝寝坊とは……。
寝癖のついた頭をポリポリと掻きながら、ミミは食卓に付いた。
「朝からこんなに食えないよ」
「いや、昼だから」
私はちりめんじゃこのパスタを一口頬張った。ん~~美味しい!自画自賛。
「おばさん、仕事は?」
「辞めてきた。昨日、仕事の引き継ぎはマニュアル化して置いて来たから、多分大丈夫だと思うんだよなぁ……まぁ、何かあったら連絡くるでしょ」
「昨日?」
「そうだよ~。ミミがグースカ寝てる間にね。お陰でちょっと眠いわ」
「……死ぬんだから、どうでも良いじゃん仕事の事なんて」
「これでも、そのセクションを任されてたからね。所謂主任ってやつ。会社が困るのは……まぁ別に心は痛まないけど、同僚や部下が困るのは嫌なの」
「ふーん。わかんねぇや」
とミミもパスタを頬張った。……ほら、美味しいだろうが。
「さて……と。今日は今から何をしようかな?映画は……面白そうなのやってるかなぁ」
と言う私に、
「寝てなくていいの?」
とミミは尋ねる。病人=ベッドの住人って図式かな?
「大丈夫。あ、これ面白そうかも。ね、ミミこれ観ようよ」
と私はスマホの画面をミミに見せた。
「なんでホラーなんだよ」
「何?ミミ怖いの?」
と笑うと私に、
「怖くねーし」
と不貞腐れるミミが可愛い。
ポップコーンとアイスカフェラテを買って映画館へ入る。
「夏も終わりだってのに、まだまだ暑いよね」
「温暖化ってやつだろ?」
とどうでも良さそうにミミは言うとポップコーンを頬張った。ポップコーンは彼のリクエストでキャラメル味だ。意外に甘党らしい。
しかし、映画館の中は空調が効きすぎていて、アイスカフェラテを選んだ事が、後々仇になってしまったのだった。
「結構面白かったね!」
「そうか?ってか、なんでホラー映画ってさ、こんな場所で一人になるの有り得なくね?って所で一人ではぐれたりするんだろ?皆でいた方が良いじゃん」
「確かに!誰かを盾にして逃げることも出来るしね!」
と私が手を叩けば、
「友達見捨てるタイプなんだな」
と言われてしまった。
それから、私とミミはどこに行くのも一緒だった。
「ここ!予約取れたんだ~」
と私がテーマパークに隣接したキャラクターのホテルのスイートルームを指差すと、
「お金大丈夫?」
と心配する彼に、
「うん。ガン保険にも入ってたしね」
と私はスマホに映し出されたスイートルームを見ながら答える。
「でも……支払いとか……」
「ミミは心配しなくて良いよ。母の従弟にね全部頼んでる。私が居なくなった後の事」
「夜遅くまで色々やってるのって……それ?」
「うん。ほら書類関係とか、名義変更とか色々雑務があるからさ。ミミが寝てる午前中は忙しく動いてるよ。役所関係とか……動ける内にやっとかなきゃね」
と笑う私に、
「……笑えない」
とミミは少し怒った様にそう言った。
「ジェットコースター苦手とか?」
からかう様に言う私にミミは、
「別に」
と不機嫌そうに言う。ミミは意外と怖がりだ。
「ほらほら、このカチューシャ着けて!せっかくテーマパークに来たんだから楽しまなゃね!」
「嫌だよ。恥ずかしいから」
と嫌がるミミに無理やりキャラクターの耳が付いたカチューシャを被せた。
背が高くて、線の細いミミに、それは良く似合っていた。
何だかんだで背の低い私に届く様に屈んでくれているのが、彼の優しさだと私は思う。
「ミミ!スマホ禁止!」
彼が手持ち無沙汰に私のトイレタイムを待っているのを申し訳なく思っているが、私は私と居る時にはスマホに触る事を禁止していた。
彼はネットの中で叩かれて傷ついていたから。しかし、私の見えない所まで彼を縛るつもりはない。それでまた病むのなら、彼の好きにすれば良い。私はミミの母親ではないのだから。
「時間確認しただけ。ほら、パレード見たいんだろ?」
「あ!そうだった。場所取りに行かなきゃね!」
と駆け出す私に、
「おばさん!急に走んなよ!」
とミミが追いかけて来る。
ミミは口が悪くても私を心配しているのだ。少し前に二人で公園を散歩している時に、私が息苦しくなって踞ってしまった事がちょっとだけトラウマな様だ。
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