何でもない特別な日
「綺麗だね~」
ピカピカ光る電飾に彩られたパレードに目を輝かせていると、
「ここに来るの初めて?」
とミミが尋ねる。
「ううん。何回も来てるよ。でも何回見ても同じ様に感動するもん、私」
「うぇっ!てか、泣いてんの?何で?」
「綺麗なもの見ると感動しない?それにさぁ、ほら物語があるじゃん」
「ただ、歳のせいで涙腺緩んでるだけじゃねーの?」
「そうとも言う」
私はパレードから目を離さずに、そう答えた。目を離すなんて勿体ない。……私に次はないのだから。
ミミもそれからは憎まれ口を叩く事なく、二人で並んでパレードを眺めていた。
パレードが私達の目の前を通り過ぎる。沿道に並んでいた観客達もワラワラと散らばり始めた。
少しだけ寂しい気分になったが、口に出すのは憚られる。すると、
「何だか寂しいね」
とミミが呟いた。ミミが私の気持ちを代弁してくれたようで、少し嬉しい。ふと気を抜くと涙が溢れそうなのを何とか堪えた。
「うわ!見て、見て!パークが一望できるよ!お客さんが居なくなっても、働いてる人にはまだまだ仕事あるんだね~」
奮発したスイートルームの窓にペタリと張り付いて外を見る私に、
「荷物少し持つ気はないの?おばさん」
と後ろから、片手にトランクをゴロゴロ引いて、もう片方に飲み物やデザートを買い込んだコンビニの袋を持ったミミが声を掛けた。
「ジャンケンで負けたの、ミミじゃん」
「そう言えば小学生の頃、ジャンケンで荷物持ちとか良くやってたな。……俺いつも何でか負けるんだよ」
「だってミミって一番最初に絶対にパー出すもん」
私が振り返ってそう言うと、
「はぁ?!どうりでおばさんとのジャンケンもいっつも負けると思ってたんだよ!!何で言ってくれないんだよ!」
とミミは文句を言った。
「言うわけないじゃん。何で自分が不利になる事言わなきゃいけないのよ」
「いや、ずりーよ。まぁ、いいよ、今度からは絶対負けないから!!」
と意気込むミミに、
「ミミ、今度から勝敗はジャンケンじゃなくて、あみだくじで決めるから」
と私が言うと、ミミはまた『はぁ?ずりーよ!』と同じ言葉で私に抗議した。語彙力のない奴め。
この部屋はツインルームだ。ベッドとベッドは少し離れて並んている。
それを複雑そうに見ている男……そうミミだ。
「どしたの?」
「いや……普通、二部屋取らない?」
「スイートルーム取ったって言った時、お金の心配してたくせに。私にもっと散財しろって言うの?」
と私が言えば、ミミは少し困った様な顔をした。
同じ家で暮らしてるんだから、別に気にしなくて良いのに。
お風呂に入ってベッドに横になる。ミミは既に横になって目を閉じている。私はフットライトだけを点けたまま、ベッドサイドの電気を消した。
パークはとても広くて、結構歩いた。……腰が痛む。
私は起き上がって、フットライトを頼りに冷蔵庫に入れたミネラルウォーターを取り出した。痛み止めを飲む為に。
「……痛むの?」
目を開けたミミが私に尋ねる。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「まだ寝てなかった」
と言ってミミはまた電気を点けると、起き上がった。
「寝てていいよ。私も飲んだら寝る」
「腰?」
私はその問いに答えずに、薬を飲んでさっさとベッドに横になった。
ミミはそんな私に近づいて、私の寝ているベッドの縁に腰掛けると、私の腰を布団の上から擦り出した。
「……何で腰だと思ったの?」
「膵臓癌って腰が痛むって……」
「調べたの?」
と尋ねる私の問いに、今度はミミが答えなかった。そして、
「すっげぇ痛むって……」
と小さな声でミミが言う。
「実はさ、私の母親も膵臓癌で死んだのね。我慢強い母だったけど、痛いって……言ってたな」
私は、そんな母の腰を今のミミと同じ様に擦っていた事を思い出した。
ミミは何も言わず、ずっと私の腰を擦っていた。痛み止めが効き始めた私は、はしゃぎ疲れた事もあって、いつの間にか眠りについていた。
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