道具について

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  道具について



 一


道具は面白い

それにふさわしい形をしている


スプーンは口の形に曲がっているし

鋏は手のひらで開け閉めできる


そもそも五本指が

ものを掴むのに便利である


二本脚だって

前へ進むのに都合がよい


そう考えると

地球上のものはすべて

その目的に適う形をしている


  二


森は木陰をつくり

動物たちを休ませる


鳥は実をついばみ

その種を遠くへはこぶ


川は海に流れ

雨となって大地を潤す


あまねく

世界を形づくるものたちは

つねに互いの不足を

補い合うのだ



  三


そんな中で

花はどうだろう


花は誰の道具にもならず

悠然と

ただひとり

美しく咲いている


ミツバチと仲よしだが

決して恩着せがましく

ふるまったりしない


花はおそらく

選ばれた数少ない

神さまの使者なのであろう


  四


ただ惜しむらくは

その命の短さよ


花はきっと

孤独なのであろう


願わくは

われわれと戯れる時間が


花にとって

素敵な思い出となりますように


            (了)

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