レプタリアン5

 草を掻き分け、道なき道を歩き続けること1時間。

 単に歩くだけでも疲弊する道のりだった。それにプラスして背には分解したMk.13狙撃銃を収納した背嚢、身体にはプレートキャリア、おまけに手には04式小銃なのだからたまらない。

 仲間内でのハイキングよろしく、おしゃべりしながらならまだ気も紛れたかもしれないが、残念ながらこれもお仕事。降下点を出発して以来、コミュニケーションはハンドサインのみで、息を殺す時間が続いていた。

 レプタリアンは作りかけのミステリーサークル付近に潜伏している可能性が高いとはいえ、道中も油断は出来なかった。不意の襲撃もあり得る以上、気を抜くわけにはいかない。自分の、何よりも仲間の命を守るためだった。

 自衛官は決して超人ではない。訓練で、そして神崎たちの場合実戦でどれだけ経験していようが、しんどいものは人並みにしんどい。ただ違うのは、それに耐え、黙々と任務を果たせるか否かだけだ。

 と、先頭を行くマヤが足を止める。全員がそれに倣い、動きを止めた。無論、警戒は怠らない。

 敵の気配はない。いまのところは。確認したマヤは、暗視眼鏡を上げ部下たちに向き直ると、囁くように静かに告げた。

「小休止」

全員が無言で頷き、その場にしゃがむ。小休止と言ってもそれだけだったが、少しは休める。少なくとも、歩き続けるよりマシな程度には。

 神崎も暗視眼鏡を上げた。緑一色の人工的な視野から解放され、ひとしきり閉じた瞼の上から、疲れ切った眼を抑える。目薬を差したい気分だが、あいにく持ち合わせていなかった。

「大丈夫か?」

 鮎沢が、これまた囁くように最低限の声量で神崎に声をかけた。

「大丈夫です」力なく微笑みながら、神崎も意識してボリュームを抑えつつ答えた。

「なんだって、毎回こんなもんつけなきゃいけないんだよなあ」鮎沢も力なく笑みを浮かべながら、身につけたプレートキャリアをポンポンと叩いた。「マル外のやつら、別に銃を撃ってくるわけでもないのに」

 言われてみれば。名前の通り、プレキャリには前後に防弾素材で出来た重量3キロのプレートを収納している。標準装備としてなんとなく受け入れていたが、よくよく考えてみればおかしな話だった。マル外に対して、なぜ防弾を気にする必要があるのだろう?チェストリグだけの方が、軽いし疲れないのに。

「想定される敵はマル外だけじゃない、ってことさ」

 自身のカバー範囲に眼を向けたまま、村上が言った。

「と、言うと?」

「地球外の技術と情報は、時に莫大な利益をもたらす可能性がある」

「それを狙って、どこかの国がぼくたちのような部隊を送り込んできたら?」

 あ、と神崎は気づいた。そういうことか。

「実際に他国が送り込んできた特殊部隊と、飛翔体の墜落地点で交戦になった事例もある」

 村上は肩をすくめた。

「人間の最大の敵は、どこまでいっても同じ人間ってことさ」

「そういうこと」

マヤが言った。

「小休止は終わり。前進」

 了解。答え、再び立ち上がりながら神崎は思っていた。人間の敵は人間、か。

 なんだかなあ。

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