漆黒の闇を、軍用フラッシュライトの白い光芒が引き裂いていた。それにより、古いレンガ造りの壁面がそこだけ切り取られたように浮かび上がる。

 壁面、そして天井の一部が破壊されているのを確認した彼女は、羽織っていたM65モッズコートの大きなポケットからタバコ――両切りのピースを取り出すと咥えた。ついで、POW・MIAフラッグの意匠が刻まれたジッポのライターで火をつける。

 彼女は、一見すると少女のようにあどけない印象を与えた。だが同時に静かに紫煙を楽しむその姿は不相応に落ち着き払った雰囲気を纏ってもいた。

 彼女の美しく長い黒髪が、地下に入り込んだ僅かな空気の流れによってなびく。

「久しぶりだね」

やがて彼女は呟いた。


久しぶりだね、神崎君。

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