ヒトガタ4

 ナイトストーカーズへの出向を終えて帰国した奥田1尉を待っていたのは新たな二つの任務だった。1ヘリ団に転属早々団長室に呼ばれた奥田は団長直々に告げられた。

 我が国を取り巻く状況は急速に変化している。対テロ、災害派遣、国際貢献、島嶼防衛と航空科部隊の任務も更なる多様性と即応性が求められる。

 我が第1ヘリコプター団も特殊作戦能力を獲得したい。君にはナイトストーカーズでの知識と経験を生かし、人員選抜と教育に努めてもらいたい。

 要するに日本版のナイトストーカーズを編成したいから礎となれ、というわけだ。特に驚きはなかった。それくらい、出向を命ぜられた時点で容易に察せられた。

 だが次いで、団長の隣に立つどこか胡散臭い空自の制服姿の幹部から告げられたもう一つの任務は、流石に予想外のものだった。

「零事案情報隊の佐藤太郎1等空佐だ。君の経歴を見させて貰った。いやはや大変素晴らしいな」

 なんと答えていいかわからず、奥田は不動の姿勢で無言を貫いた。自衛官となって長いが、零事案情報隊という部隊名も初耳だ。どのような部隊か見当もつかない。唯一佐藤の胸に輝く空自のウイングマークから、彼もまた同じパイロット、あるいはかつてそうだったのだということだけはわかった。

「君には我々の任務に適合するよう特別に改修したチヌークの機長を任せたい。搭乗員の人選は任せるが、優秀かつ口の堅い者を頼む。任務には非常に大きな危険が伴う場合もある。またその過程で見たものは一切他言無用。家族はもちろん、部隊の同僚にも明かしてはならない」

「はい」

「よろしい。君に飛んでもらいたい時はこちらから連絡する。よろしく頼むよ」

「は」

 零事案情報隊について具体的な話は一切なかったが、奥田には十分だった。逆にそれが答えに等しかった。どうやらナイトストーカーズで散々運んだ米軍特殊部隊のように、高度な秘匿性が求められる部隊らしい。であれば、こちらからも敢えて触れない。自分はヘリパイとして求められた任務を冷静に果たす。ただそれだけだ。

 だが零情の初任務で飛んだ時には、流石の彼も動揺した。生まれて初めて機上で動揺した。相方に選んだ菅原2尉も声が上ずり、機上整備員の高橋2曹も手が震えていた。

 逆に聞きたかった。初っ端からいきなり富士の樹海に墜落した正体不明の円盤状飛行物体――あからさまに世間でUFOと呼ばれているもの――の回収を命ぜられて平静を保てる者がいるのかと。

 とはいえ慣れというのものは恐ろしい。似たような墜落した飛行物体の回収任務や、どう見ても人間ではない生命体の遺体の空輸、そして今回のようなヒトガタ駆除任務が続く中、いつしか何も感じなくなっていた。それは共に飛ぶ二人も同じだった。

 もはや身体の一部と化したサイクリックスティックとコレクティブレバー、アンチトルクペダルを巧みに操り、奥田はアカギSの機首を北へ向け、所定の高度に上昇して巡航に入る。眼下には東京湾とそこに真っ直ぐ引かれたアクアラインとうみほたるの明かりが、そして正面に目を向けると舞浜の有名なテーマパークの背後に東京首都圏の宝石のような夜景が広がっていた。

 事前に零情から提供された情報に基づき作成したフライトプラン通りに飛行する。ヒトガタにある程度まで近づいてからは、彼らが狙撃しやすいよう臨機応変に対応する。

 第一のヒトガタ、ホテルワンまでアカギSの機速ならすぐだった。情報通りであれば――もっとも、これまで外れたことはなかったが――この時間、すでに見えている葛西臨海公園を遊弋しているはずだった。

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