タコハチヤ・タコヤキーヤ5

 神崎たちが武器と装備を整え、佐藤建設と書かれたくたびれたハイエース二両で行動班毎に出発したのは、それから1時間後のことだった。

 運転は神崎で、助手席にはマヤが座り一応車長を務めている。二人とも汚れたツナギとヘルメット姿で、設定通り作業員を装っていた。

 環状8号を練馬に進む。渋滞もない。時おり見かける桜は、既に花を咲かせていた。七分咲きといったところだ。週末には満開だろう。春なんだなと、神崎は素直に思っていた。

 出発以来、一言も会話はなかった。転属当初こそ、相方の貝のようなむっつり具合と、キャッチボールどころかキャッチさえしてもらえない会話の続かなさに絶望的な気まずさを抱いていた神崎だったが、マヤが決して神崎を嫌っているわけではなく、単に人付き合いが壊滅的に不器用なだけだと理解してからは、気にすることもなくなった。

とはいえ…バックミラーで2班のバンがぴったりついてきているのを確認した神崎は口を開いた。これは聞いておいた方がいい。

「マヤさん、どうしたんですか?」

「なにが?」マヤは窓の外から神崎はに眼を向ける。

「なんだかずっと考え事をしてるみたいで。会議でもロクに話してないですし」

 なにかあるんですよね?マヤは神崎が言外に伝えたものを察し、受け止めたようだった。

「――腑に落ちないのよ」

「と、いいますと?」

「タコハチは卵の状態で地球に落下する。そうよね」

「一応出る前に教範に当たりましたが、そう書いてましたね」

「わたしは最初の事件発生から過去一か月の天体観測結果を当たってみたんだけど、首都圏に落下した隕石は確認されていない」

 言いたいことはおぼろげながら掴めたが、余計な口を挟まず、黙ることで続きを促した。

「引っかからない?各国が公式、非公式を問わず地球に衝突の恐れのある天体を常時追跡し、日本上空には空自と在日米軍がレーダー網を敷いてるのに探知できなかった。それも首都圏に落ちているのに、民間情報にも流星騒ぎも目撃例もなし」

「確かに、不可解です」

「もしかしたら…」

「なんです?」

「いいの。なんでもない。勘違いかもしれないし」

 気にはなったが、聞いたところで答える気はなさそうだ、と察した神崎はそれ以上の詮索を辞め、運転に集中した。

 それっきり、現場に着くまで会話はなかった。

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