私の好きな人の好きな人は私…の親友

私が小学校に入学して初めてできた友達は、隣の席の梅ちゃんだった。私はあまり社交的ではなかったが、梅ちゃんはそんな私以上に引っ込み思案な子だった。女の私にも守ってあげたいと思わせるほどに。そんな梅ちゃんを陽太に紹介した日、私はまたしても失恋をした。とても辛い。陽太のあのキラキラした顔をまた見れたのは嬉しかったが。


陽太は梅ちゃんを休み時間のたびに外に連れ出した。そしてここでとまた姉のときと同じように、梅ちゃんは私と遊びたがり、陽太は私から梅ちゃんの情報を仕入れた。


いつのまにか陽太は、好きな子は虐めたくなっちゃう系男子へと進化を遂げていた。梅ちゃんに虫(しかも大きめのカマキリとか)を渡して泣かれたり、梅ちゃんがお絵描きをしたいと言っているのに強引に鬼ごっこに参加させて泣かせたりしていた。当然梅ちゃん(と一部の梅ちゃんと仲のいい女子)には大いに嫌われ、梅ちゃんは陽太が近づくと親友である私の後ろに隠れるようになり、私は陽太から睨まれる、という結果になった。私はなにもしていないのに好きな人に嫌われて、この世の理不尽を6歳にして悟ったのである。


陽太は梅ちゃんに嫌われたのが相当応えたらしく、私に助言を求めてきた。俗に言う都合のいい女ポジションに納まった私は、陽太に理想の男子像を叩き込んだ。その結果陽太は小学校6年生のときには、スポーツ万能、友人が男女共に多く社交的、勉強は中の上くらいだが先生からの受けが良く、優しく心遣いが行き届いていて、学年一モテる中心的存在の男子、所謂少女漫画のヒーローキャラになった。そしてその裏には私(と陽太)の血の滲むような努力があった。


陽太は運動神経が良かったのでスポーツ万能の部分はクリアしていたが、他が酷かった。一部の女子には蛇蝎の如く嫌われているし、勉強も遊んでばかりで全然していなかった。優しく心遣いができるという点は梅ちゃんへの態度を見て察するだろう。


なのでまずは陽太の勉強への意識改革から行なった。幸い地頭はそれなりに良かったので、陽太専用の楽しみながらできるドリルを作ってあげれば勉強の楽しさに気づいたようで、自主的に勉強をするようになった。


次に他者への態度を学ばせた。学校で「この場面は〜を言って〜をすれば良い」という解説を行い、実践させ、少女漫画や絵本、道徳の教科書を読ませて学習させていった。その結果、陽太は気遣いのできる子として先生にも生徒にも良い印象を持たせることに成功した。自然と友人も増え、モテ始めた。ここまでに3年かかった。


梅ちゃんへもこれまでのことを謝罪し、もう一度チャンスが欲しいと願い出たようだ。優しい梅ちゃんはそれを許し、数ヶ月をかけて2人は友人以上恋人未満な関係へと発展していった。周囲も祝福ムードになり、2人は付き合うかと思いきや、そのまま何事もなく卒業してしまい、梅ちゃんは私立の女子中学校に進学してしまった。陽太は悲しそうにしていたが、梅ちゃんと連絡先を交換することはできなかったようなので、同じ中学に進んでいても結果は変わらなかったのかもしれない。


私はというと、梅ちゃんと陽太が仲良くなり始めてから2人とは適度に距離を置いていた。好きな人と親友が付き合うのは見たくなかったからだ。私は好きな人をモテ男にしたバカだった。


ここで私の話を少しだけしよう。私はただのバカではなく、勉強はできるバカだった。成績は上の中くらいで、一般的に見ると良い方だったのだが、しかし私には姉という存在が常に付き纏っていた。姉は、成績トップで運動神経も良く、美人で優しくていつもクラスの中心にいる主人公キャラ、を地でいく人だった。私はいつも「佐倉向日葵の妹」であり、無駄に期待され、失望させてきた。「妹ちゃんもまあ悪い方ではないけど佐倉みたいにはなれなくても仕方ないよね」みたいな空気が嫌いだった。面と向かって言われることも多かったが、みんな悪気はないみたいだったから仕方ない。仕方ないのだ。


しかし陽太は姉と私を比べなかった。ときには私を庇うことまでした。そうして性懲りをなくまた私は期待をするのだ。陽太が私を好きになってくれるのではないかと。


まあそんな日は来なかったが。閑話休題。


そして私たちは地元の中学校に進学した。そこでも陽太はなぜか私の友達ばかり好きになり、付き合っては別れるを繰り返していた。私はいつも陽太に情報を流す役割だった。友達を陽太に紹介しなければ良いのではないかと考えたときもあったが、私の友達はみんな可愛い子だったので、紹介しなくても陽太は気づくのだった。


一生このままなのだろうか。

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