私の好きな人の好きな人は私…の姉

私、佐倉雪と天野陽太は幼なじみだ。母同士が従姉妹なのもあって、兄弟同然に育てられてきた。そして私は、陽太のことが好きだった。初恋、というやつなのだろう。私の初恋はとても長く続いている。今なお諦められないほどに。


そんな初恋の人、陽太、の初恋の人を、私は知っている。私の姉、佐倉向日葵である。陽太の初恋が始まった瞬間を、よく覚えている。


私たちはずっと隣の家に住んでいたのではなく、私たちが4歳のときに陽太一家が我が家の隣に引っ越してきたのだ。陽太ママが離婚してシングルマザーになって、1人で陽太を育てるのは大変だから、と私の母が自分の土地に家を建てて陽太たちを呼んだ、ということを大人になってから知った。私の母は陽太ママのことを実の妹のように可愛がっているのだ。


そして陽太が引っ越してきた日、私の姉と目が合ったそのときに、陽太の初恋が始まったのである。あのときの陽太のキラキラとした顔が忘れられない。人が恋に落ちる瞬間というのを初めて見たときだった。


初めて見たのになぜ恋に落ちたのかわかったのかというと、何を隠そう、私もそのとき陽太に恋をしたからである。陽太の笑顔が太陽みたいだ、と思ったときには落ちていた。そしてその目が私と同じだと気づいた。つまり、私は初恋と同時に失恋をしたのである。あのとき泣かなかったのは奇跡だったのではないだろうか。


陽太が一目で恋に落ちるのもわかるほど、私の姉はとても可愛かった。姉は近所で有名な美少女だったのだ。姉は2歳年上で、6歳だったその頃から歩いているだけでスカウトされていたほどなのである。


そんな姉が満面の笑顔で「陽太っていうの?私向日葵!ひまって呼んでね!これからいーっぱい遊ぼう!」などと言ったのだ。恋に落ちるなというほうが無理である。


そこからの日々は地獄といっても過言ではないほどだった。陽太は姉と遊びたがり、姉は私とも遊ぼうとする。好きな人から(こいつ邪魔だな…)という目で見られるのはなかなかに辛かった。陽太もまだ幼かったので、感情が隠せなかったのだ。姉はそんな陽太に怒り、もう遊ばない、と絶交宣言までして、陽太を大いに慌てさせた。まあ、そこからはシフトチェンジしたらしく、姉の情報を私から仕入れようと私とも遊んでくれるようになった。私は私で、健気に姉の情報を陽太に与えていた。


姉が小学校に上がってからは陽太と私は2人で遊ぶことが多くなったが、話題はずっと姉の話だった。陽太は一途に姉のことが好きだったのだ。しかし姉はそんな陽太の心に気づいているのかいないのか、私たちの小学校の入学式が近づいてきたある日、彼氏を連れて帰ってきた。陽太はその日大泣きをし、陽太の初恋は終わった。まあ、姉は1週間と経たずにその彼氏と別れたらしく、「恋っていまいち分からないんだよね。どうしてもっていうから付き合ったけどなんか違うなって思って別れた」と若干クズ感のある発言をしていた。今考えると、なかなかにませた小学2年生だったなと思う。閑話休題。


さて、陽太が失恋をして私にもチャンスが巡ってくるかと思いきや、小学校に入学したことで新たな出会いがあり、私の初恋はまたしても叶わないのである。

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