16.救世主育成計画


 女神通信は突如として訪れる。

食事を終え、宿屋の一室で寛いでいる最中でも例外ではない。



【プルルル……プルルル……ガチャ、あっ女神様だ】


いつもの様に、顕現した黄金の受話器を手に取る。

「お疲れ様です女神様」


『ユタカ青年、おつとめご苦労様、また随分と変な事始めたわね』


「はい、そろそろ一人旅も飽きましたし」


『ロリコンなの? 異世界で奴隷ハーレムしたいの?スケベ?』


「僕は確かにスケベですが、ロリコンではないです。神に誓って」


『私が神なのに……まぁ、なんかの計画なんでしょ?教えてプリーズ』


「名付けて【救世主育成計画】です!」


 豊の放った計画名から、ほんの少し間を開け

全てを察したように女神は相槌を打った。


『あっ! あぁ〜〜! やるじゃんユタカ青年〜!』



 豊の言う【救世主育成計画】

神々のルールでは、救済時に直接世界に干渉出来る人間を選ぶ場合、現界させる人物は必ず【一人】と決まっている。


 しかし、干渉出来る人間の手で、

【救済者を増やしてはいけない訳ではないのだ】

実力のある救済者を増やせば、必然的に活動範囲と効率が上がり、

人類幸福度は上がりやすくなる。


 という流れである。


 大人では、力を与えた際に欲をかいて悪人に転向してしまう恐れがある事、奴隷を直接救い、子供の頃から倫理観を教育するなど、様々な理由から、ロシィは選ばれたのである。


『レベル概念を取得すれば、強い救済者が世界に現れるし、大体の問題は力技でなんとかなるもんね〜! なるほどね〜!』


「良い計画でしょう?」


『まぁ、めっちゃ気が長いかもしれないけど、幸福度を下げてる奴隷問題にもメスを入れるなんて流石ね! 小賢しい人間じゃないと思いつかないわ!』


「はっはっは! 褒められてる気がしないですぞ! 女神様!」


『世界救済自体に期限はないし、ユタカ青年は私の加護で歳をとらないから、実質勝ったも同然よ! 後はユタカ青年のテクニカルな機転で幸福度を上げるだけね!』


「おまかせください女神様! 世界を救って、異世界美少女にモッテモテになってみせますぞ!」


『後半のはいいや、じゃ、頑張ってね〜』


【ガチャ……】




「あん、酷い……」


「ごしゅじんさま、どうかしましたか?」


「なんでもないよロシィ、神様とね世界平和について考えてたんだ」


「ごしゅじんさま、すごい!」


 目を輝かせながら豊を見つめるロシィ。彼女の今後の活躍が期待される。


「え~……。ロシィがレベルを獲得したお祝いとして、こちらの物を

用意しました~! じゃーん!」


 それは、女の子用の大きなリボンであった。ロシィの長い髪をまとめる際、いちいち豊がヘアメイクするのも手間であるという事で、正式に用意したものである。


「カワイイ! あかいおリボン!」


 ロシィはリボンを手にし、顔に押し付けながら喜んだ。丈夫な造りで肌触りも良く、更には丸洗いも出来る、この地で手に入る最高級品である。


「ごしゅじんさま! だいすき!」


「ふふふ……。嬉しい事言ってくれるじゃないか……! よおし、今日はトコトン喜ばせてやるからなぁ~!」


 気を良くした豊は、過剰なる糧からいつものメニューを取り出し、二人で食事を楽しんだ。


「明日も頑張ろうなロシィ」


「はい! ごしゅじんさま!」


 この日は不思議と心が温かくなり、ロシィは朝までぐっすりと眠ることが出来た。

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