13. 出来ることから①

【プルルルル……プルルルル……ガチャ、あっ、女神様だ】


 いつもの様に、黄金の受話器を持ち上げる。


「おはようございますですぞ。女神様」


『おつとめご苦労様〜。定時連絡よ〜。前回に引き続き、人類幸福度が四パーセントに上がったわ〜』


「おお、やりましたな!」


『ただ、今回は能力覚醒は無いわね。次のアンロックは多分五パーセントかな』


「コレって段々と、要求パーセンテージが上がる系ですかね?」


『そうかも、最上級神様のシステムは、私達いち神では詳細までわからないから』


「女神様末端なの……?」


『末端じゃないわよ! ちゃんと位も役職もあるもん!』


『……フォルトゥナ様、次の仕事がありますのでお早く』


『あっ、ゴメンねユタカ青年。私忙しいからまたね〜』


【ガチャン……ツーツー……ツーツー……】


「そろそろテコ入れで、美少女登場とかしませんかね……?」




 すっかり男一人旅が慣れてきた豊は

糧で食事を済ませて次の街へ向かった。



 訪れた街、ドガルドは、各地を繋ぐ貿易で栄えた地であり

何処と無く、ハガンカを彷彿させた。


 賑やかで活気あふれる雰囲気の中

ふと街中の端に目をやると、みすぼらしい格好をした奴隷の姿が目に付いた。

 首と手足に枷があり更に鎖に繋がれている。

身体は痩せ細り、顔色も優れない様子であった。


「(この世界には奴隷制度が存在するのか……)」


 一口に奴隷と言っても、その形態は様々である

奴隷と聞いてイメージの強いのは、物として粗末に扱われ

身体を壊せば、捨てられたり売られたりする形態。


 または、奴隷の教養や能力毎にランク付けされ

給料を貰い、適切な場で働かされる形態なども存在する。

 奴隷となった原因などを細かく分類をすれば、まだ種類はあるが

主に強制労働か、雇用形態としての役職かの違いである。


 この世界は残念ながら前者

弱者は蔑まれ足蹴にされる。

 生まれながらにして幸福とは程遠い世界。

それがこの世の流れなのだろう。


 豊は、これらの奴隷を救ってあげられないかと考えた。

しかし、この世全ての奴隷を解放するには

莫大な金を積むか、政治に介入し


 制度自体を変えて、解放宣言をするしかない

だが、神に選ばれし召喚者であっても

その手段は容易ではない。


 人類幸福度を上げて、能力のアンロックをしても

何処まで自分は力を手に入れられるのか

豊は、自分の力の無さを感じていた。


 だがしかし、今自分がこの街を訪れ、問題に直面したのも何かの縁

今出来る事を精一杯やるしか手はない。

彼はそう決意し、奴隷について調べ始めた。


 豊は、酒場で呑んだくれてる連中に酒を振る舞い

情報を集め、奴隷商人の場所を突き止めた。


「ほう、冒険者の方ですか……」

 品良く仕立てた服を着こなせていない、腹の出た奴隷商人に

冒険の荷物持ち。サポーターとして、奴隷が欲しいという都度を話した。

奴隷商は豊の姿を色眼鏡越しに観察している。


 よく手入れされた装備品に、装飾の施された剣の鞘。

背の高さと恰幅の良さ。様々な観点から、人間として吟味されている事だろう。


「一人で冒険者を生業にするとは、貴方は余程の手練れでいらっしゃるようですねぇ……」


「まぁ、行商人の真似事をしながら路銀を稼ぎ、魔物を狩りつつ旅をしてる」


「それで、何故急に奴隷を?」


「信用のできる荷物持ちが必要になったんだ。これから物資を買ってからハガンカへ向かおうと思ってね」


「儲け話ですか?」


「それには答えられない」


「ふふっ……まぁよろしいでしょう。私共は必要な方に、必要なだけ商品を売るだけですから……」



 勘繰っているのか、興味が無いのか、表情がいまいち読み取れない

男のかけている色眼鏡が、表情と目の動きを隠す役割を担っているからだ。


 豊は、現状でなるべく早急に、手を差し伸べなければならない

弱い奴隷を救うべくして条件を出した。

「奴隷の状態は悪くても構わない。なるべく安いのを頼む」


「承りました……ではこちらへ……」


 男に案内された先には、頑丈な檻がいくつもあり

その中には、奴隷がポツポツと入れられていた。


 建物内に充満する嫌な湿気と、様々な臭いが混ざった環境内

掃除はされておらず、どう考えても人間が滞在できる状態でなはい。

奴隷にも階級が存在し、豊はその中でも一番下のものを選んだようだ。


「質の良い奴隷は早いうちに売れてしまいますからねぇ、まぁ安いのが残ってはいるのでご期待には応えられるかと……」



 豊はあまりの惨状に言葉を失っていた。

悪臭と悪環境に、吐き気やめまいまで覚える。

ゲームやノベルでの描写の比では無い、現実を突きつけられ

悲しみとやるせなさに、心を潰されそうになる。


 世界を救い、人々を幸せにすると女神と約束した際

いつかこのような光景を目の当たりにする事は覚悟していた。

呼吸を整え心を落ち着ける。


 檻の中を覗くと、その隅でひとりポツンと残された奴隷が目に付いた。

人間の子供であろうか、小さな体を更に縮こませ

まるで、自身がここに居ないかの様に装っている。

買い手がつかない様にしているのだろう。


「あれはウチに来る前から栄養失調で、人前に出す事が出来ずに売れ残った奴です、まともに動かないので後で、魔獣のエサにでもしようかと……」


この子だ、自分が救うべき人間は。そう直感した。

豊は表情を変えず、言葉を発する。


「……いくらだ?」


「アレになさるんですか?役に立たないですよ?」


「アレにする」


「まぁ、アレなら魔獣のエサ代くらいでよろしいでしょう、ギルダム銀貨1枚です」


「わかった、手続きしてくれ、が死ぬ前にな」


「かしこまりました」


その後、代金の支払い奴隷制約の譲渡が行われ、

滞りなく奴隷の購入は終わった。


抱きかかえたその子にだけ、聞こえる様に豊はつぶやく。

「もう大丈夫だ」

彼の声が届いたのか、その子は弱々しく、豊の服を掴んだ。

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