11.おばけ大樹①

【プルルルル……プルルルル……ガチャ、あ、女神様だ】


 黄金の受話器は、いつも突然に顕現する。


『ユタカ青年、あなたの活躍により人類幸福度の数値が三パーセントに上昇しました。少しですが私も神としての力を取り戻すことが出来ました。この功績により、神の使いであるあなたの能力が、一部アンロックされます』


「そんなシステムだったなんて、知らなかった……」


『今言ったのですから当然です』


「……つまりは人類幸福度を上げると、僕の隠された力が覚醒すると?」


『そう言うことです』


「僕の魅力が覚醒して、美少女にモッテモテとかは……」


『ないです』


「あ、ない……」


『人々の声を、聞き幸せに導いてください……』


【ガチャ……ツーツー……ツーツー】


「いつも一方的で本当に困る……」




 豊は、気を取り直して次の村へ

行き着いた先は、林業が盛んな村であった。


 森と共に生きる


 それが、昔からの伝統とのこと

人々に、村の中で困った事は無いかと尋ねると

ひとつ悩みがあると言われ、村長の家を尋ねる事となった。



 挨拶もそこそこに。村長から悩みを聞くと

どうやら森に、木の魔物が多数目撃される様になったとの事


 元々森には、少なからず木の魔物が存在するが

それはずっと奥の方に、ごく少数といった程度であり

林業にさほど影響はなかったのだが


 最近は、浅いところにも出現し、

木こりの仕事効率が落ちているという話だった。




「屈強な木こり達が十分な装備をすれば、木の魔物に負ける事はありませんが、魔物を倒す為の時間を考えると、仕事に時間が取れず、苦労しているのです。是非ともフォルトゥナ様の使いの方には、良い知恵を貸して頂けますと……」



「あいわかりました、それでしたら森に詳しく、屈強な木こりの方と、私が使う分の斧を用意してはいただけませんか」



「承知しました。今日は私の家にお泊まりください、明日の朝までには、木こりと斧をご用意致します」



「よろしくお願いします」




 豊は村長の家に世話になり、朝がやってきた。



「アンタが神様の使いか、アタシの名はリカンナよろしく頼むぞ!」



 爽やかに名乗ったのは、赤い髪を後ろにまとめた

褐色の女性だった。ヘソ出しの黒インナーに、橙色の上下着

男顔負けの逞しい肉体に圧倒されそうになるが、

顔はまだ少女の幼さが残る美人であった。



「リカンナは女でありながら、木こりみんなが認める確かな腕と、方向感覚を持っております。必ずやお役に立ちましょう」


 村長は自信たっぷりといった顔だった。



 新しい磨製の斧も受け取り、

豊はリカンナと共に森へと向かった。


道中



「磨製の斧は始めて見ましたよ」


「そうだろうね。金があれば、鉄製の斧の方が効率は上がるんだろうけど、村の裏山で取れる石がなかなかに硬くて頑丈なもんだから、ウチらは代々大人になると、自分の斧を自分で作るんだ」


 リカンナが持っているのも、年季の入った石の磨製斧であった。


 木を切る為だけではなく、魔物も相手できる様に、

戦いもこなせる巨大な斧。


 速度と重さを合わせれば、

屈強な猛獣ですらひとたまりもないだろう。


「この先から少しずつ、木の魔物が出てくるから気をつけて……」


 リカンナがそういうと、彼女の目線の先には

他の木とは違う、禍々しい木があった。



【おばけ大樹】

 木の表面に、人の顔に見える不気味な模様がある木の魔物。

動きは遅いが、ツルと枝で人間や動物を取り押さえ、生気を吸い取り成長をする。

根を足にしてちょっとした移動もする。



「これはまた、随分と立派な……」


 おばけ大樹のツルが、ジワジワと迫り来る。

それを斧で切りながら、本体へと近づく二人。


「コイツが、森の動物達を手当たり次第食い物にしている所為で、今年は牙猪ファングボア赤鹿レッドディアなんかが減ってるんだ」



「そんなデカい獲物を食べるんですか!?」



「大体おばけ大樹1匹につき、赤鹿一匹ってところだけど、大樹自体の数がいればシャレにならなくなるのさ」


「成る程ね」


「しかし、おかしいんだ。おばけ大樹は動物の死骸を栄養にすることはあっても、生きている動物にまで手を出すなんてことは今まで無かった」


「大地から栄養が無くなってきている……? なんてこと……が、この地でも?」



 二人は会話しながらも

着実に、おばけ大樹に斧を突き立てる

互いにタイミングを見計らいながら


 交互に一点集中で斧を打つと

五分ほどかけて、おばけ大樹を一体仕留めた。


 最初は抵抗したものの

刃が入ってしまえば、なす術はなし

おばけ大樹は見事な丸太になった。



 普通の木ならば、

相当な重さになるであろうが、おばけ丸太は

実に軽く、一体につき十キログラム

あるかないか、という驚くべき軽さであった。



「これだけ軽ければ木材として使えませんか?」


「ダメダメ、こんだけ軽かったら強度も見込めないし、倒したらすぐに水分が抜けちゃうし、第一魔物の木材なんて、みんな気味悪がって買っちゃくれないよ」


「そうですかね……質さえ良ければ、いくらでも買い手はあるはずですけど……」


そういっておばけ丸太を担ぐと、丸太はすでにカラカラに乾いて更に軽くなった。



「…………?もしかして…………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る