10.畑よ生き返れ②
探し当てた腐葉土と、狂い泥の泥塊を袋に詰め
村に帰った豊と村人達。
その量、実に80キログラム。
ほとんど、狂い泥の泥だが
豊はある可能性を感じていた。
狂い泥を構成していた泥は
不自然な程に、混じりっけが無い泥で虫一匹
石、一つ見つからず
まるで厳選をしたかのような状態であった。
豊は狂い泥一キログラムを
休ませている畑に混ぜ込み耕した。
すると、不思議な事に、耕した範囲の土が
見る見るうちに、上等な土壌へと生まれ変わったのだ。
如何に栄養価が優れている泥が、畑に混ざったとはいえ
ここまで瞬時に変化するのは通常ならば考えられない。
「ん……?」
僅かな違和感を覚えて目を凝らすと
豊には、畑全体に微量だが魔力の反応がある様に映った。
「そうか、連作障害じゃなかったのか……」
ここ数年、畑で起こっていた作物の不作、それは
大地の魔力不足からなる【不足症状】に近い状態だった。
この世界には豊の知る要素の他に【魔力】が存在する。
何故、村人はこの事に気が付かなかったのか、やはり魔術適性によるものだろう
適性があれば、それに則した仕事が与えられ
田畑を耕す機会など得られない。よって適性がある者が、畑や土を見ることは無い。
それ故に、農作物にも魔力が必要だという事に辿り着かなかったのだ。
村人にその都度を伝え、村人総出で一斉に
狂い泥肥料による、土壌改善作業が始まった。
村人総出で四日
豊指導の下、土壌改善作業が行われ
見るも無残だった村の畑は、見事に生まれ変わった。
最初に豊が耕した畑には、育ちが早い
【早咲きカブ】
と呼ばれるラディッシュを植え
様子を伺っていたが
その成長は、目を疑うほどに早く
もう収穫手前まで成長していた。
「この様子なら、村が自給する分はすぐに取り戻せるかもしれない」
村人達は希望を持ち始めていた。
更に、一週間が経過し
過剰なる糧で食い繋ぎながらも
様々な野菜を植え、主食となるイモの収穫をすることもできた。
ようやく村はひと段落ついた。
一番の要因は作物の成長速度
これがなければもっと長い期間
過剰なる糧で食い繋ぐことになっていたであろう。
豊は、この滞在期間
村人に農業の知識を知る限り伝えた
畑は休ませなければならない。
休ませながらも農業を続けるためには
稼働する畑と休ませる畑を順番に使い分け
休ませる間は手入れをし、腐葉土などの栄養となる土を適度に混ぜ込む
畑が不衛生だと作物は育たない
害虫、害獣の駆除やその対策
ついでに村人全員に、常用文字
四則計算を仕込み
大きな石に一覧表を用意する事で
この村に教養を残す事にした。
一般的に文字や四則計算は、金持ちや商人
一部の特権者しか得る事は出来ない贅沢品である。
しかし、豊は幸せを知る為
掴む為には正しい教養が必要不可欠
と考えていた。
豊の一連の行動に、村人達は深く感謝をし
末長く感謝を忘れぬようにと、唄を残す事にした。
かの村、畑が病に倒れ
危機に瀕した収穫の月
女神フォルトゥナの使い現れ
豊穣の粥を人々に振る舞い
飢えと病を祓いたまう
神の使い泥の魔獣を仕留め
清めの泥で畑を蘇らさん
蘇りし大地の糧は時を駆け
大いなる実りで人々を満たす
神の使いは残す
幸福とは知ること
知ることは未来を拓くこと
人よ忘るることなかれ
この唄【フォルトゥナの使い】と
【土壌改善農業唄】はその後
村を訪れた旅の吟遊詩人により
広く世界に伝わっていく。
「……しかし、何故ここ数年に不足症状は起きたのだ……?」
豊は、ほんの少しの疑念を残し、再び救済の旅へと歩み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます