9.畑よ生き返れ①


 結果から言うと、畑の状態はすこぶる悪かった。

耕し方は粗雑で、小石も多く紛れており、土からは栄養が抜けている。

これで育てという方が、無理な話である。



 土壌改善を行おうにも、農業に対して

僅かな知識しか持ち合わせていない豊は

この現状に頭を悩ませていた。



(母の家庭菜園を手伝った時、ネットで調べた際には原因を突き止め、それに対応した肥料とかを混ぜたりして土壌改善したけど、ここは異世界だし、そんな技術の結晶は望めない……そもそも僕の常識は通用するのか……?)



 農民の話では、年々収穫量が減っているとの事で

そこから察するに、起こっているのは

連作障害ではないかと、豊は大体のあたりを付けた。




「元々大した知識がないんだから、思い付いたことを実行してみるか……」



 豊はまず、今畑として機能している土地を全て休ませ

その場所から距離を置き、新しい畑を作る事を提案した。

連作の対策は純粋に畑を休める事。



 粥によって、体力を取り戻した農民に、新しい畑作りを任せ

豊は畑の栄養になりえる腐葉土を探すべく、森に入る事にした。

 村人が手伝いを申し出たので

森に詳しい数人を選び、近くの森へと向かった。



 森は狩りや木の実の採取、木の伐採等により

人が度々訪れるという事で、多少、道に人の手が入っている。


 辺りには野草や木の実の形跡は無く

わずかな数を残してはいるが、殆ど取りつくされたようであった。

それだけ、厳しい現状に追いやられていると言える。


「すみません、この森で虫の幼虫がよく見つかる様な場所はありませんか?」


 案内人の男性が答える。

「それならば、モスビートルの幼虫がよく見つかる所が」



 村人の案内で森の奥へ向かうと

光があまり入らない様な場所に着いた。



「適度な湿度に厚い枯葉の山……あったらいいなぁ……」


 手当たり次第に、枯葉の山をめくり

下の方が腐葉土になっているかを確認する。


ちゃんと肥料として使える腐葉土になっていると

【発酵により摂氏が高くなっている】


 という情報を豊は

以前インターネットで調べたのを憶えていた。


 手分けして探す事数分、豊が候補になりえる

腐葉土の集まりを発見。


これならばと思い、村人に腐葉土を集める様

指示をしようとした矢先

村人が悲鳴をあげた。



「うわぁぁぁぁぁぁあ! 狂い泥マッドロンだぁぁ!」

「なんでこんな、森の浅い所まで出てきてるんだ!?」



 豊達は、モンスターの襲撃を受ける。




狂い泥マッドロン

意思を持つ、泥のモンスター

盛り上がる泥が、人の形をしている様に見える。

這いずりながら移動し、縄張りに入ってきた生物等を

自らの身体に取り込んで栄養にする。

大人一人を軽々と飲み込む程、質量がある。




「皆は下がって! ここは僕が!」


 ショートソードを下段に構え

狂い泥と対峙する豊。




(見るからに打撃の通用する相手ではないが、無形モンスターの常識的には核が存在するはず……攻撃を躱しながら泥を巻き上げ、核を的確に壊せば……)




 狂い泥が、泥の塊を撃ち出す。

「ドンッ!」という大きな射出音と共に

拳大の泥が、豊目掛けて襲い掛かる。


「ヒッ!!」


 間一髪のところで躱したが

もし、射出時の予備動作を見逃していたら

豊に直撃していただろう。


 たかが泥と侮ってはいけない

高速度で射出される泥は

同等石と大差ない程の威力が見込める。

現に、豊が躱した泥玉は、後ろの木を抉っていた。


(長引けば長引く程こちらは不利、手早く勝負を決めなければ……)


 豊は、攻撃を仕掛ける。

ショートソードの面を使い

泥をすくい上げる様に、打ち上げて分離させ

狂い泥自身の体積を減らす事で

核を探し当てる算段であった。



(ないっ! ハズレ! 出ない! スカ!)



 攻撃を躱しつつ幾度

ショートソードを突き立てようとも

狂い泥の核らしきものは見つからない。


ひょっとして、核が無いのかと

思考を巡らせながらも、深く突き立てたその時

剣越しに【カチリ】と鈍い感触があった。


「そおいっ!!」


 空中に巻き上げた泥の中に

歪な形をした、光る石を発見した豊は


 それを直接手で掴み取り、泥の塊から距離を取る。

数秒もしないうちに、核を失った狂い泥は力を失い

その場に崩れ落ちた。


 核は身体を失い、しばらく動き続けたが

豊が布でグルグル巻きにすると、大人しくなった。


「おおっ! ユタカ様がやったぞ!」

「流石はユタカ様だ!」


村人は歓声を上げ豊へ駆け寄り

それぞれ豊へ賞賛の言葉をかけた


豊は狂い泥の核を取り巻いていた

泥の塊を確認し、仄かに摂氏が高い事を感じた。


(これは……。ひょっとしたら……)

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