8.命の消えかけた村


 ハガンカから歩いて、計四日

豊は、噂に聞いた村へと到着しようとしていた。


【プルルルル……プルルルル……ガチャ!】


 このやり取りは、黄金の受話器を通して行われている。


「はい、僕です」


『ユタカ青年お久しぶり、村に入る前に設定は決めた?』


「はい、滞り無く物事が進む様に、私は女神様を信仰する使徒として、村に救いを差し伸べようと思います」


『よし!それで行こう!』


「では、滞りなく行く様に神様に祈っててください」


『私! 私が神様だから! 正式な女神様だからぁ!』


【ガチャ……ツーツー……】



 

歩くことしばらく……。


「おっ、第一村人発見。こんにちは」


「あっ、こんにちは……」


 畑で農作業をしていた若い女性

覇気のない声に、痩せ細った身体。

明らかな栄養不足が見てわかった。


 女性に事情を話すと

彼女は大変驚いた様子だったが

すぐ村長の住む家に案内した。


「私が村長のモブラです」

 豊は、軽いデジャブを感じながら

フォルトゥナ様の導きで、村の手助けをしに来た都度を伝えた。


「ありがとうございます。この村は現在不作続きで、我々が食べる分を作るのもやっとという次第でして……。領主様には何とか、最低限の税で勘弁してもらっていると言ったところです……」


「だとしたら、農業の改善が主な問題ですかね?」


「はい……。それに加え、食料の不足により、皆は気力体力共に衰えている次第でして……」


「食料問題と農業改善……。ではまずは食事からですね。その後に、畑を良く見せてください」


「何卒……よろしくお願い致します」


 豊は、村で一番大きい鍋を用意してもらい

村長の家の前で、炊き出しを実行する

人には見えない様に、第三の術を駆使し

それらを豪快に粥にした。




 過剰なる糧に使用されているおにぎりの米は

大体、お茶碗2杯分の360g

卵焼きに使用されている卵は6個

ウインナーは200gといったところだ。


 卵焼き、ウインナーを細かく刻み粥の中へ

椀と匙を大量に用意して、村人全員に行き渡らせる。


 過剰なる糧の粥を食べた村人は

皆揃って、豊に感謝をした。



「こんな美味い料理は初めてだ……」

「助かった……本当にダメかと思った……」

「ありがとうございます……ありがとうございます……」



 村人は少しずつ元気を取り戻し……


「あぁ!寝たきりだったばぁさんが急に立ち上がったぞ!」

「あんなに苦しかった呼吸が楽になった!」

「あぁぁぁ、すごい……肌が見違える様に……」


 ……すぐに元気を取り戻した。



 豊の魔力を代価に、食物を実体化させる過剰なる糧は

料理の栄養素をそのまま再現している。


 現代で何度も品種改良や

味の研究が成された食材には

この世界の食材の、約数十倍の栄養が含まれていた。


 ただ1つ弱点があるとすれば

圧倒的な野菜不足であろう。

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