7.次の村へ
ハガンカから旅立ち、二日が過ぎた。
途中、行商人達の話を聞いた際に
年々度重なる不作により
危機に瀕している村の存在を知った
豊は、人々を救うべく。その村へと向かっていた。
「我が前に体現し、飢えと渇きを満たせ! 第三の術!」
【過剰なる糧】
第三の術、【過剰なる糧】は
豊青年の生きた現代の食事を、
魔力を代価に実体化するものである。
豊が夜食に最も食したとされる禁忌の献立
大きいおにぎり2つ、チーズ入りの卵焼き、
炒めたウインナー、烏龍茶のセットである。
その日の気分により、おにぎりの具と味付けが変わるという。
異世界での生活には最早欠かせないスキルであった。
初めの一ヶ月を乗り切れたのは、間違いなくこれのおかげである。
「塩昆布と梅干しとは今日の天気を考慮した素晴らしいチョイスですな! はっはっは!」
天候は快晴、木陰に腰を下ろし、ゆっくりと糧を胃に収める。
しばしの休憩を取り、腹の具合を確かめてから動き出す。
「ふう、出発しますかな」
それは寂しさを紛らわせるための独り言であった。
大きな道を少し離れ、林を抜ける。
ちょっとした丘を越え、森を横切る。
大雑把に記された地図には、丸が書かれており、
凡その、村の場所を示している。
豊のふくよかな身体には、長距離の移動は向いていない
何度も休みながらの移動ではあったが、
その豊満なボディに、痩せる気配は一向になかった。
それとは別に、豊は違和感を覚えた。
「モンスターの数が少ないというよりも……全然居ませんぞ……?」
女神が創りし世界は、剣と魔法のファンタジーと聞いていた
禍々しい、如何にもなモンスターは居るし、
巨人もドラゴンも、多種多様に存在する。
「この辺は、餌になる様なものがないのであろうか……」
思いを馳せていると、茂みから影が飛び出した。
「ほほぅ……ラビィですな……目と目が合ってしまったのでコレは恋の予感……ンンッ!!」
一陣の風が吹いたかの様に、ラビィはその素早い身のこなしで、
豊に対し、突進攻撃を繰り出していた。
恋の予感などと云う冗談も半分に、ラビィの一撃を躱して武器を構える。
野生の魔物は、出会ってしまえば、戦闘は避けられない程に
自己防衛意識が強く、どう猛な種族が多い。
ちなみに【魔物」と【魔獣】の区別は、
動物型かそうじゃないかによって分けられ
【獣】は比較的穏やか、【魔獣】問答無用で襲ってくるものと
この世界では定義される。
【魔物】と【魔獣】は総称として
【モンスター】とも呼ばれる地域もある。
【ラビィ】――――――――
兎型の獣ではあるが個体差が激しい。
中には大型犬並みの体躯を持つものもいる。
頭には固い一本角が生えており、
別名で、白い一角獣とも呼ばれる。
体重と速度を乗せた突進は、
木に穴を開ける程、強力である。
――――――――――――――――
対峙している個体は平均より小さいが、素早い動きと
固い角と、体当たりによる直線的な攻撃。
これを、抜群の反射神経で回避。
豊は、ドッジボールで負けた事がないくらい、
回避に優れていたのだ。
当たれば只事では済まない突進故に、
豊は、じっくりと相手を観察し、
慎重に攻撃の隙を伺っている。
これは彼の攻撃スタイルでもあり
体形の所為で、派手に動いたり出来ない為、編み出された戦法である。
観察によれば、突進の前に予備動作として
後ろ足で、土を蹴る習性がある。
おそらくは、速度を上げる為の行動だろう
それに気付いた豊は、次の攻撃を待つ。
その攻撃を、横に躱して一閃
勢いよく振り下ろしたショートソードが
ラビィの頭を直撃し、即座におとなしくなった。
刃の部分ではない所で打った事により
ラビィは強い脳しんとうを起こし、倒れ
その隙に、手早く首を締め上げた。
「頂きました命は無駄にはしませんぞ……」
ハガンカで過ごした三ヶ月の間に、豊は
一部、モンスターの解体を会得していた。
ラビィは、彼の慣れた手捌きによって、素材へと早変わりした。
「この先の村では、この素材の需要はあるだろうか……」
素材でいっぱいになった背嚢(はいのう)を背負い直し、
豊は目的地へと歩を進める。
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