6.出発の日に
「長い間、お世話になりました」
豊の雇用期間が終了し
昨日はささやかな宴の場が用意され
主人、雇用人を含め皆大いに楽しんだ。
「ユタカ、またいつでも遊びに来てくれ。次また会う時は友人として歓迎させてもらう……」
「旦那様……ありがとうございます」
「身体に気を付けてね。街の外は凶暴な魔物も多いし……ほら、二人とも……ユタカにさよならを言って」
「……ユ゛タ゛カ゛ァ゛……行かないでぇ」
可愛らしい顔を崩しながら、アンリエットは泣き散らかしてしまっていた。
「泣くなアンリエット……。もう会えないってわけじゃないんだから……。引き止めてしまってはユタカも困ってしまうだろう?」
宥めるハイネの目にも、涙が溜まっている。
賢明に涙をこらえているのが、豊にも伝わってきた。
「夫人。坊っちゃん。お嬢さま。それに使用人の皆さん。ありがとうございました」
「ユタカ。コレはルーティーン家からの贈り物だ。今朝一番に届いた物でな、なかなかの逸品だぞ」
豊が受け取った包みの中には、磨き上げた業物のショートソードがあった。
鞘から取り出してみると、練り上げた純度の高い鉄が、太陽の光で煌めき、
その剣の上等さを、ありありと示している。
「旦那様……!!」
「ハイネとアンリエットの案なんだよ。君の役に立つ贈り物がしたいとね」
「坊っちゃん……! お嬢さま……! ありがとうございますぅ……!!」
「ふふっ……ユタカもまるで子供みたいね」
二人を抱き締めた豊は、
皆の心遣いに歳も忘れて泣き散らかした。
ルーティーン家で過ごした日々は、豊にとって
忘れがたい思い出となった。
「さぁ、ユタカ! 行くのだ! まだ見ぬ君の助けを求める人々の元へ!」
「はいっ!!」
業物のショートソードを引っさげて
豊の旅は始まった。
ハガンカで過ごした三ヶ月あまりは
この世界のチュートリアルとして
為になることばかりであった。
人類幸福度上昇の旅は
これから始まる。
【ピーピー……ガガッ……】
『やぁっとハガンカを出発したのねユタカ青年……。三ヶ月のチュートリアルはどうだった?』
「女神様は容赦なく感動をぶち壊しますね……」
『何よぉ〜! コッチはようやっと仕事がひと段落して、様子見に来てあげたっていうのにぃ〜!』
「それはどうもありがとうございます、はい」
『ナニソレ〜? もっと感情込めてよ〜神様なのよ〜?』
「それはそうとして! 女神様どうなってるんですか!!」
『何がぁ〜?』
「異世界に来たら美少女にモッテモテだって言ってたじゃないですか!!」
『私は【需要はあるかもね〜】ってニュアンスでモッテモテって言ったのよ〜?』
「ズルいですぞ! 詐欺ですぞ!!」
『アンタ、キモオタ語に戻ってるわよ』
「ンァ〜〜〜〜! 今回もモテなかったンゴォォォォ!!!!」
豊は知らない
日頃の行いや火事での一件で
ルーティーン家のメイドや
ハガンカの娘達からの評判が
とても良かった事を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます