5.期限
豊が、ルーティーン家の家庭教師になって、およそ二ヶ月程が経った。
「女の子が子供の頃は、『パパとけっこんする〜』と言われたいのが、父親心というものだ」
そう熱弁するルーティーン家当主、ビットマン・ルーティーン。
豊を相手に、いかに自分の子供達が可愛いか、という話題を肴に酒を傾ける。
夫人であるカミラも、その親ばか具合には、ややあきれ気味、と言ったところであった。
「ところでユタカよ、もうそろそろ、最初に決めた契約期限が迫ってきておるが、心は決まっておるのかね?」
「はい、始めお約束した通り、旅を続けたいと思います」
「そうか……ウチの二人は、君をとても気に入っていたからなぁ……残念だよ……」
「僕には、使命がありますので」
「立派な事だよ。各地を回って人助けをしたいだなんて、今時、君のような青年は居ない。本当に惜しい」
「あなた、ユタカが困ってしまいますわよ」
心底悔やんでいるビットマン氏を宥める夫人は、
いつものように優しい目をしていた。
「いつでも帰ってきてね……私たちはあなたを歓迎するわ……」
「ありがとうございます」
「君には感謝しきれない程の恩がある。あの火事の日……あの日程、恐怖した日はなかった……」
「あの日の私たちの様に、必ずや、あなたの助けが必要な方々がいるはずです。がんばってくださいね……」
「はっはっは! まるで、明日出発する様な話ぶりですまないな! 期限は後10日ある。その日まで我がルーティーン家で精いっぱい働いてくれたまえ!」
「はい、旦那様……!」
「どれ、ユタカ、君も酒に付き合いたまえ! もう今日は良いだろう!」
「頂きます、旦那様」
………………
………………
………………
部屋の外、離れがなくなり、
本館に寝床を移した小さな影は大人達の話を聞いていた。
「……ユタカ……」
数日後の朝
豊はふたりの子供達といつもの様に学び、鍛え、育んだ。
ハイネは魔術を組み込む剣術と体術で、豊にクイックアップを使わせる程に成長し、アンリエットは、火の制御を完璧にこなす様になっていた。
このことには魔術師も大変驚いており、将来が楽しみだと告げる。
あの火事が、ハイネとアンリエットをひと回りも、ふた回りも成長させたのだ。
アンリエットもそうだが、ハイネは自分の氷魔術を咄嗟に発動出来なかったことを悔やんでいた。
あの時自分が魔術を使えたら、もっとユタカは軽傷で済んだ。あるいは早期に火を止められたかもしれない。
後悔し続ける事は良くないが、次に繋がる反省を、ハイネは深く理解していた。
「お二人は夢や目標をお持ちですか?」
豊が、問いを投げかけると
「ぼくはもちろん王国騎士になるよ! 父上もなってほしいみたいだし!」
「わたしはね……およめさん!」
二人の回答に、豊は自分の幼少期を重ね
思い出し、不意に
幼稚園の頃、可愛かったユイちゃんに
こっぴどくフラれたのを思い出し
泣きそうになった。
「ユタカ……どうしたの……?」
「大丈夫ですお嬢さま、目にゴミが……」
豊は昔からモテなかった……。
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