『アイリの卒業と、ディアの求婚』(2)

……そして、アイリ高校卒業の日の前夜。

ディアは自室の机に座って目を閉じ、意識を集中させている。

ペンダントに加工された小さな赤い宝石を両手で握りしめて、強く念じる。


(……アイリ様)


心の中で愛する人の名を呼びながら、その手に魔力を集中させる。

ディアの両手から放出された魔力は、赤い宝石の中へと送り込まれ吸収されていく。

ディアが目を開けて両手を広げると、魔力で満ちた宝石は先ほどよりも輝きが増して見える。


魔界では婚約や結婚の際に、装飾品に魔力を込めて相手に贈る。


その時、ディアの部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。

ディアは急いでペンダントをケースに入れると、引き出しの中に隠した。

ゆっくりと席を立って歩き、扉を開けると、そこにいたのはパジャマ姿のアイリ。


「ねぇ、ディア……お願い。一緒に寝よう?」


アイリは上目遣いで恥ずかしそうにディアに『添い寝』を申し出る。


「高校生最後の思い出に……なんちゃって……」


ディアは少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んで頷く。


「はい。承知致しました」


ディアにとって、恋愛の封印解除は明日であり、少しのフライングではある。

しかしアイリは、ディアの恋愛の封印解除の日を知らない。


二人でベッドに入ると、アイリはディアに抱きついて密着する。


「あ、アイリ様……」

「ふふ。また魔力の結合が起きちゃうね」


封印解除の前日にディアの理性を破壊しにかかるアイリは、なんとドSなのだろうか。

アイリは幼く見えるが、母親に似てスタイルが良い。そんなに密着したら感触で伝わる。

だが真面目なディアは、なんとしてでも明日までは耐えなければならない。


「そのうち、魔力の結合で子供ができちゃったりして……きゃっ」


とんでもない発言をして、自分で恥ずかしがるアイリであった。

明日も、これからも毎日ずっと、ディアの温もりに包まれて眠りたい……

そんな願望が明日、本当に叶うとは、その時のアイリは夢にも思わなかった。

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