『リィフの接近と、アヤメの魔法』(2)

この学校『オラン学園』は、3階に学食と図書室がある。

アイリは一人で食堂に入り、メニューを選んでカウンターの前で待つ。

すると調理場の奥から食事のトレーを持った少女が出てきて、アイリの前のカウンターに置いた。

ピンクの着物の上に、白の割烹着。アイリと容姿がそっくりで、少しだけ大人っぽい。

そんな彼女がアイリを見て、声をかける。


「あら?アイリ、今日は一人なの?真菜ちゃんは?」

「あ、うん。真菜ちゃんは、お兄ちゃんと一緒にお弁当食べるんだって」

「まぁ……コランったら、幸せ者。でもアイリは寂しくない?」

「いいんだもん。私はお母さんの料理が一番好きだから」


学食で調理を担当している彼女こそ、アイリとコランの母親。

魔王の妃で、人間だが禁断の魔法により永遠の17歳、王妃アヤメである。

アイリとしては、兄のコランと親友の真菜の恋は応援したいが、何かと寂しいのも確かだ。

いや、寂しいというよりは、羨ましいというのが正直な気持ちかもしれない。

だからこそ、無意識にアイリはちょっと拗ねた顔をしていた。


食堂は中等部と高等部の生徒たちが入り交じり、それなりに混んでいる。

アイリがどこに座ろうかと迷っていると突然、長テーブルの1つに座っていた女子生徒がアイリに向かって手を振った。


「アイリ様!!こっち、こっち!ここに座ってええで!」


その明るい声と独特な方言で、リィフはアイリを自分の隣の席へと招いた。

アイリは驚いて一瞬だけ躊躇したが、言われた通りにリィフの隣の椅子に座った。

リィフは相変わらず愛想よくニコニコと話しかけてくる。


「アイリ様、今日は珍しく一人なんやね!ウチも友達が休みで、寂しかったんや〜」

「そうなんだ。リィフちゃんも、いつも食堂で食べてたんだね」


アイリには他のクラスに知り合いがいなかったので、いつも食堂にリィフがいた事に気付かなかった。

正直言うと、性格も正反対で、おそらく恋のライバルでもあるリィフには少し苦手意識がある。

だが、この機会をチャンスだと転換させたアイリは、リィフの本音を聞き出そうとした。


「ねぇ、この前リィフちゃんが言ってた『応援』って……」

「ああ、それね!せやな、まずディア先生の好物とか、趣味とか教えてくれへん?」

「え……」


アイリが言い終わる前に、被せるようにしてリィフの質問攻め。

すでに、リィフとしてはアイリが『応援』してくれる事が前提になってしまっている。

ディアに関しての情報を欲しがるのは、やはりディアに気があるからだろう。

やはりリィフは、恋のライバルなのだと確信してしまった。

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