『リィフの接近と、アヤメの魔法』(3)

それでも心優しいアイリは、自身の恋の危機感よりも、リィフの恋を心配した。

ディアは、今まで何人もの生徒から告白されたが、一度も受け入れていないから。

ディアが、生徒を恋人として受け入れる事はありえないと知っているから。

何よりも、自分がディアと結ばれるんだという、強い決意があったから。


「リィフちゃんは、その……気持ちを打ち明ける……の?」

「うーん、そうしたいんやけど、OKしてもらえるかなぁ……」


アイリは、それには答えられなかった。

アイリだって、いくら気持ちを伝えても、ディアから確かな愛の言葉を返してもらえない。

……不安な気持ちには共感する。



結局、アイリは昼休みにモヤモヤな気持ちを増してしまい、そのまま放課後。

今日もアイリだけが、魔法の授業の補習を受ける。

いつものように、アイリはソワソワしながら教室でたった一人、ディアが来るのを待つ。

そして教卓側の引き戸が開き、ディアが教室に入ってきた……が。

ディアの様子が、なんだかいつもと違う。困ったような、緊張したような……何とも言い難い表情だ。

教卓の前に立つと、ディアは目の前の席のアイリに視線を合わせて、授業を開始する前に報告を入れる。


「今日はもう一人、補習を受ける生徒がいます」


それを聞いたアイリは一瞬、もしかしたら、またリィフなのでは、と思った。

だが、ディアが2度も不正を認める訳はないし、今は教室に生徒はアイリしかいない。


「その生徒が来たら補習を始めますので、しばらくお待ちください」


……という事は、もう一人の生徒は補習に遅刻という事になる。

本来なら遅刻の生徒を待つ事も、王女であるアイリを待たせる事もありえない。

それなのに、ここまで特別扱いをされる生徒とは誰なのだろうか。

……その時。


ガラガラガラッ!!


なぜか教卓側の引き戸が開き、慌てた様子の女子生徒が入ってきた。


「ディアさん、ごめんなさい!着替えてたら遅れちゃった……!」


その女子生徒を見たアイリは、目を限界まで開いて驚愕した。

……いや、目を疑った。

自分とそっくりの容姿で、同じ制服を着た彼女は……


「ええぇ!!?お母さんっ!?」


それはアイリの母親であり、永遠の17歳。王妃アヤメである。

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