『アイリの発覚と、ディアの魔力』(3)

ディアは何度もアイリの部屋の扉をノックしていたらしいが、全然気付かなかった。

今、どんな顔をしてディアと向かい合えばいいのか分からない。


「あ、うん、ごめんね。どうしたの?あっ、とりあえず入って」


ぎこちない笑顔をしながら、アイリはディアを自室へと招き入れた。

アイリが生まれた時から同じ城で暮らす二人は家族同然なので、なんの抵抗もない。

フワフワのピンクの高級絨毯の上に置かれたローテーブルに、二人は向かい合って座る。

ディアは相変わらず深刻そうな顔をしている。


「えっと、ディア、どうしたの?」

「健康診断の事です。結果は、どうだったでしょうか」

「あっ!そ、そっか、それね、その事ね!あー……」


ディアは、アイリの健康診断の結果を心配して来てくれたのだ。

それなのに、アイリは目も口も泳ぎまくっていて、まともな声が出せない。


……私、懐妊したの。

……ディアの子を、身籠ったの。


(なんて、言える訳ないよぉっ……!!)


アイリは口だけをパクパクさせながらも、なんとか心の叫びを封じこめた。

このディアの様子だと、あの日の夜は魔獣の本能が目覚めて自我を失った為に、記憶にないのかもしれない。

話してしまえば、真面目なディアは責任を取ろうとするに違いない。

でも、そんな形で結婚を急がせたくはない。

結婚するなら、ちゃんと両思いになってからの方がいい。


「えっと、ぜんっぜん、何ともなかった!健康だったよ……」

「そうですか……」


嘘をついてしまった罪悪感で語尾が沈むアイリと、それを聞いて沈んだ顔つきになるディア。

健康問題がないという事は、アイリの魔法の不調は原因不明という事になる。

こうなると、やはりアイリの心の問題としか言いようがない。


「アイリ様っ……!!」

「え……ふぇっ!?」


ディアが突然、身を乗り出して、テーブルの上に置いたアイリの片手を両手でぎゅうっと握りしめた。

瞬時に顔を真っ赤にしたアイリに向けられるディアの眼差しは、真剣そのもの。


「魔力の乱れは、心の乱れです。お悩み事があるなら、ご相談下さい」


(だから、それが言えないんだってばぁ〜〜!!)


アイリを乱している原因は、間違いなくディアなのだから。

心の叫びとは裏腹に、アイリの口からはディアに対する想いだけが溢れ出していく。


「……ディア、好き……大好きぃ……」


こんなに優しくて、真剣に向かい合ってくれて、いつも側にいてくれて。

そんなディアが愛しくて愛しくて、たまらない。

ディアを愛せば愛すほど、恋がアイリを狂わしていく。


「はい。ありがとうございます」


それなのにディアは、その愛を受け取りはするが、返しはしない。

『好きです』と、言い返してはくれない。

行き場を失った一方通行の切ない恋が、全ての原因なのだと……気付いてはくれない。

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