『アイリの発覚と、ディアの魔力』(2)

自室に入ると、アイリは脱力してキングサイズのベッドに倒れこむ。

仰向けになって天井を見つめながら、はぁ、と大きく息を吐いた。


(私……懐妊したんだ……ディアとの子……)


次の瞬間、ハッと何かに気付いたアイリは、脳内で計算を始めた。

今は、高校3年生になったばかりの春。このまま行けば……

アイリはガバっと起き上がって、どこか遠くを見つめて口走る。


「どうしよう、卒業前に産まれちゃう!?」


だからと言って、すぐに懐妊の事実を公表する勇気もない。

まだ恋人でもないディアに言う勇気もない。

それ以前に今のアイリは、魔法の成績を上げなければ卒業すら危うい状況。

いくつもの窮地に立たされたアイリは、決意した。


……ギリギリまで、ディアに言わない。

それまでに、ちゃんと私を好きにさせて、正式に恋人になる。

そして、ちゃんと卒業もする。


(でも、魔法の不調が、懐妊によるものだとしたら……)


これから先は恋も勉強も、さらに困難な道を行く事は避けられない。

ディアはモテる。リィフを始め、恋のライバルだって多い。

だが、このまま弱気でいては、何も解決しない。

だからこそ……


(ディアと恋人になる!子供を産む!!卒業もする!!)


人生最大の3つの決意と共に、アイリの恋の炎は燃え上がった。

本来なら、悪魔であるアイリが、魔獣であるディアと子供を成せるという確証はない。

それなのに今のアイリには、高校卒業後にディアと幸せな家庭を築いている、という未来の願望しか見えていない。

……と、そんな時に。


コンコン、コンコン!!


「ふわっ!?」


アイリの部屋の扉を外から強めにノックする音に驚いて、アイリは妙な声を上げた。

慌てて寝室を出ると、出入り口の扉の前に立って、そっと扉を開けてみる。

その先にいた人物とは……


「アイリ様、失礼致しました。何度もノックしたのですが……」


何も知らずに深刻そうな顔をしてアイリの部屋を訪れた彼こそ、ディアだ。

なんというタイミングだろうか。

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