第3話『アイリの発覚と、ディアの魔力』

『アイリの発覚と、ディアの魔力』(1)

後日、アイリは城内の医療・診察室にて、健康診断を受けた。

一通りの検査を終えて、アイリは女性医師と向かい合って座り、診断結果を聞く。


「それでは、検査の結果をご報告します」


神妙な面持ちで語り始める医師に対して、アイリは緊張せずに軽く構えていた。

おそらく体には何も問題ないんだろうと、感覚で確信していた。

……だが。


「アイリ様。落ち着いて聞いて下さい」


そう医師が前置きをした事で、アイリの確信が不安に変わる。

え?これって、何か重要な問題が見付かった時に言われる前置きなのでは……?

まさか、本当に体に病気が見付かったのだろうか。



「アイリ様の体内に、ディア様の魔力反応が確認されました」



医師のその言葉を聞いた瞬間は、アイリにはその意味が理解できなかった。

だが、医師がその続きを言い淀んでいる間に、少しずつ気付き始めた。


「え……そ、それって、まさか……」


絞り出すように出されたアイリの声は震えている。

悪魔にとって、体内に他人の魔力を宿す事の意味は限られている。

それは、その相手との子を胎内に宿すこと。つまり『懐妊』。

魔力とは、遺伝子を示すDNAのようなもの。それは確実にディアとの血の繋がりを証明する。

アイリが衝撃に言葉を失っていると、気を遣ってなのか、医師が遠回しに話を続ける。


「……最近、ディア様と何か親密な事をされましたでしょうか?」


その質問は、もはや尋問。その答えを口に出せないアイリを追い詰めていく。

……身に覚えが、ありすぎるからだ。


(……あの時の、添い寝!?え、でも、あれって……まさか……)


グルグルと高速回転し始めたアイリの思考の中で、あの時の添い寝を思い出してみる。

あの日、確かにディアと一緒のベッドで寝たが、アイリはすぐに眠ってしまった。

可能性があるとすれば、その後しかない。


(まさかディア……私が眠っている間に……!?)


いや、さすがに、それは……でも、もし魔法で眠りを深くさせられていたら?

しかも、今は魔獣が活発になる『春』だ。つまり繁殖期。

……ありえる。

ディアとの、ただ一度の添い寝で、そんな事が……。

顔は驚きながらも、感情としては困るのか、嬉しいのか。話が飛躍しすぎて、もう訳が分からない。

アイリの混乱を察した医師は、控えめながらも、さらに何かを告げようとする。


「アイリ様、それで……」

「うん、分かった、もういいよ。この事は、まだ誰にも言わないで。ごめんなさい、ちょっと一人になりたい……」

「……分かりました。この件は内密にしておきます」


アイリは椅子から立ち上がると、フラフラと不安定な足取りで診察室を出て行く。

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