この世の悪夢、執行役員会 〜的確に最適に、 そして最速に殺めよ〜

ミコトノリ812

この世の悪夢、執行役員会 〜的確に最適に、 そして最速に殺めよ〜


夜9時、アパートの屋根から電話をする一つの影があった。


『この世は穢れている。人々はいじめ、喧嘩、戦争へと規模を大きくしていった。それなのに顔色を変えずに強者は弱者を使い古し、駒へと変えてしまう。だが執行役員による制裁を下し、穢れを浄化させるのだ。今こそ立ち向かえ、醜い姿を晒してでも相手を的確に最適に最速で殺せ。解ったか、執行役員No.Ⅱ空白no name


そう話すのは役員長執行役員No.Ⅰヴィルサーレ。

執行役員会ヴィルサーレのドンであり、僕の実の兄である。


名前は影流かげるという、これも実の名前ではないんだけど。

まぁ、影流兄さんは役員長モードになると少し饒舌になるんだよな。


そしてこの仕事はただ相手targetを殺せば良いだけ。

そして影流兄さんは執行役員会【ヴィルサーレ】と呼ばれる組織のトップをしている。


その右腕として働いているのがこの僕、孤闇こやみだ。

影流兄さんの実の弟にして悪夢と呼ばれる殺し屋だ。


空白no nameっていうのはただチルドレンネームと呼ばれるもので、スパイがもっているコードネームのようなもの。


ナンバーが高くなればなるほど強く、上位の存在へとなって行く。

影流兄さんが一番で僕が二番だ。


『はいはい、わかってますよ影流兄さん』

『おい、ここでは役員長と言え。一応仕事現場だからな?』


『りょーかい。まぁターゲットの近くに着くから切るよ?』

『そうか、健闘を祈る。No.Ⅱ』


そう言い電話を切る。

少し兄さんは面倒臭い設定とかを持ち出してくるからイヤになる時もあるんだよなー。


まぁ少しは頑張りますか。

36B地区に今回のターゲットがいるようだ。

そうターゲットの資料を捲りながらアパートの上をひょいひょいと飛び移って行く。



そして空白no nameは血だらけに赤黒く汚れたマントを羽織り、颯爽と夜を駆ける姿はまるで吸血蝙蝠のよう。

戦闘はナイフを基本とし、どんな銃火器でも扱える。

ナイフで戦うため近接重視、特記点として視線誘導や超人的な感覚、天才的なセンスを持ち合わせている。


弱い相手とは遊びとして戦っており、底がしれない強さを兼ね備えている。

人肉を生で持ち帰る習慣があるようでカニバリズムを疑われている。


裏社会では名前が売れており、国際警察からも手配書が出ているほどだ。

これが空白no nameの今ある全ての情報であり、ほぼ全てが隠蔽されている。


そんな男は今日も暇つぶしのために任務に出る。

今回のターゲットを見つけた時、ニヤリと微笑みを浮かべる。



ターゲットは43歳、男性。コードネーム gun maestro


写真からしてダンディーで意外にも好印象を持てる。普通の会社員として働いているが、裏の顔はスパイ。

それも強い部類に入るようだが眼中にはない。

そして拳銃を一つ備えているようだ。

サプレッサーと威力を重視しているようでお金をかけているみたいだった。


影流兄さんに持って言ったら喜ばれるかな?




まぁ少し遊びますか。


そう思いすっと夜に溶けたかのように潜伏をし、地上に降り立つ。

殺気を全て消し後ろから近づく。

特別製のナイフを手に持ち首をめがけて音も置いて行くようにナイフで斬りつける。


何かに気付いたのか相手はすぐに拳銃で受け止めた。


「こんばんは、今日は曇っていて天気が良くなくて嬉しいな。まぁ殺すのには最適な天気だからね」

笑いたくなるのを堪え、ナイフを五回ほど斬りつけるが全て拳銃で受け止められる。

一撃で死なないから他に戦ってきたのより幾分かは楽しめそうだ。


「こんばんは、これから槍でも降ってきそうな冗談ジョークだな。そしてお前は確か空白no nameか。まぁジョークが下手なのはよく知っているぞ」

パスパスとサプレッサーの音を立てて撃たれるが弾速的に避けられるから問題はない。


嫌なところを撃ち、細い道の逃げ場を無くす。

少しめんどうな相手なんだろう。


だが対処は容易い。

こういう人はみんな音や視覚に頼りきりだ。というよりは大体の動物には当てはまるだろう。



そしたら目の前で視覚を使った面白い手品トリックを見せてあげよう。



相手からはスッと止まったかのように見えた。

瞬発的に撃ったが当たった感触が一切無かった。


目の前には空白no nameが、いるは、ず?

風穴が開いていたのは敵ではなくマント。



「ざんねん、僕はここでした。罰則として左手一本!」

声の主は後ろに居た。

数メートル以上、音も立てずに後ろに立って見せたのだ。


歴戦の猛者ですら気づかないスピード、消音技術、視覚を使ったトリック。

それは天才、いや。神の技術としか言えなかった。


そして瞬きもできないような瞬間のみで左手は切り取られていた。


今まで痛くも無かった腕が熱く火照り始め、血がダラダラと垂れ続ける。

今まで切られていたことに気づけなかった。


それは抜刀術であるような早技、刀よりも鋭い刃。

二つを合わせた時に出来るようになる技術を使われていたのだ。



「いい血の色だ……♡早く飲みたくなるなぁ、」

そして鮮血を見るや否や空白no nameは笑いを溢す。


ゲラゲラと、この世の終わりを詰め込んだような悪夢の笑い声。

はぁはぁと息を荒げ、血に見惚れている。


生き残っても長くはないと悟ったのだろう、できる限りの人生を送っていたのだろう。


だが目の前にいた執行役員この世の悪夢はニヤリと睨みつけている。

今から直ぐに殺せるんだぞと言わんばかりにステップを軽く刻む。


耐えきれない痛みと目がクラクラし始めるが、もうこれ以上は生きていけない。



パスッと音を立てコードネームgun maestroは倒れ空白no nameは沈黙を確認した。

そしてそれが格上にあった時の最適解だった。


他殺になるくらいだったら自殺にしないといけない。

この裏の界隈での暗黙のルール。


他殺になってしまった時点でソイツよりも下だとレッテルを貼られる。

しかし自殺は自分が望んでやった。

誰にもレッテルを貼られずに済む、そんなことらしい。


少し暇つぶしにはちょうど良ったのかもしれない。

「でも少し残念だなぁー、たった左腕が切れた程度で自殺しちゃうんだもん」


まぁ楽しかったには変わりないので今日の晩ご飯用に左腕を持って帰るかな。

影流兄さんも喜ぶはず。


ちゃんとホウレンソウ報告、連絡、相談をしないと怒られるからスマホで連絡をする。

『No.Ⅱは任務完了しましたー』

『よくやった、これから死体を回収に向かう。が、くれぐれも晩ご飯用にとかで肉片を持ってくるなよ?』


『いいじゃーん、美味しいのに』

『俺にカニバリズムの趣味はないんだ。あぁ、言い忘れてた。食べるにしても帰って来たらお風呂入れよ? そのあとご飯があるから腹を空かせておくように』

少し心配性だなー、影流兄さんはさ。

負ける相手なんかいないってわかっているはずなのに。


ご飯の心配もしてくれているんだろうけどそれはどっちでもいいや。


『りょーかい、影流兄さん』

『役員長だ、』


そんなのどーでもいいんだけど、まぁそうなっているなら従うしかないなぁ。

まぁ少しつまみ食いだけしとこうかな、左腕が丁度あるし食べようかな。

飲み物の代わりに血を飲んで喉を潤す。


そんな微笑みを浮かべながら左腕をグシャグシャと食べる。

生の腕も美味しいな、影流兄さんだって食べればいいのに。


まぁ刺激は強いから仕方ないね。




少し風に当たりながら帰路へとつく。

影流兄さんの手作り料理が待っているから早めに帰らないとね。


影流兄さんの料理は世界一美味しいから食べない日はない。

まぁ明日も執行日だから寝る前に手入れはしておこうかなぁ、マントも新しいのに変えないとだし。


太陽も、月も見えない影の路地裏へと足を踏み入れる。

一つ路地裏に行けばそれは裏世界へと繋がる。

一つ踏み外せばドン底へと繋がる。


明日も明後日もそんなドン底の人々を輪廻から断ち切る。


そして次の執行日は明日。

それは貴方とは程遠い裏で起こる悪夢の始まりであり、この世の終わりだったのだ。



誰が殺されるかは完全にランダムであり、どんなに悪いことも平等に裁かれる。

的確に最適に、そして最速に裁きを下しこの世の輪廻を治す。


それが今もそしてこれからも執行役員会ヴィルサーレの命題なのだ。


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