第31話 鬼の襲撃と撃退

 辺りは夕方近い。

 学校からバスに乗る金が不足しているのでイドミと急いで徒歩で土倉の本家に向かう。


「バス代貰っておけば良かったですねんどろいど」


「……そんな…勿体ないことできるか!!半額弁当4つ分無駄になる!とにかく陽が暮れる前に向かわないと。


 俺たち陰陽師は病気にかかると術も弱くなるんだ。いくらあいつが土御神の生まれ変わりでもそこは変わらんだろ!?」


「随分と優平様を好きになってきたんじゃないでスリランカ?」


「ちっげーわ!!別に!恩を少しでも返す為だ!急ぐぞ!」

 と俺とイドミは走る。


 *


 この気配…は。

 襖を開けて縁側の廊下を歩く。

 熱のせいで少しクラクラするが…朝よりはマシだ。庭を視ると結界が…弱くなっている。

 このまま鬼門が現れ、鬼に襲われると危ない!

 鬼の気配も強く感じる。もうすぐ陽が暮れる。

 鬼門が出る時間だ。

 すると廊下の向こうから民代さんと鈴さんがやってきた。


「優平くん!!大丈夫ですか!?」


「大丈夫…まだ…ミッキーくんは?」


「今、迎えに行かせました。それと前当主様も、とりあえず無理矢理引っ張ってきました!」

 すると使用人達に捕獲された父がブーブー言いながらやってきた。


「ちきしょー!締め切り前なのに!風邪なんか引くんじゃないよ!優平!しかも私の力なんて現役より徐々に薄れてきてるのに…。役に立つか解らんぞ!?」


「いないよりはマシですから…」

 そう言うと父は


「とりあえず効かんかもしれんが無いよりはマシだな」

 と懐から護符を数枚取り出して、空に放ち、結界を補った。まぁ無いよりはマシですね。


「そのミッキーとか言うのは強いのかい?」


「自称ライバルで堂満の子孫でありますので多少はやります」

 父は苦虫を噛み潰す。僕や鈴さんも異変を感じる。陽が暮れた。


 この家のすぐ近くから鬼門の出現する気配を感じた。奴等は僕が弱っていることを察知しているに違いない。こういう時を狙って、いつもなら一体ずつなのに数匹群れで現れるから厄介なのだ。


 鬼が出てくる気配がする。


「鈴さん!民代さん、部屋に護符を貼り付け一言も声を出さないように!」

 と僕は、お札と慰め程度の式神を警護につけた。


「でも!優平くん!!私…」


「さあ、僕のことはいいから言った通りにするんだよ?」

 と民代さんに目配せして、民代さんは鈴さんを部屋に連れて行く。


 鬼の気配が増えて結界にゾロゾロと乗り上がってきた。弱まっている結界を異形の鬼達がゴリゴリと叩いたり削ったりしている。


 僕は剣を握った。


「ちっ!黒鬼に白鬼…霊鬼に邪鬼…餓鬼団体ツアーかよ!!」


【青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女】

 と俺は唱え、結界をさらに強め、よじ登ってきた鬼共を弾き飛ばした。

 しかし、直ぐにまた鬼達はゾンビみたいによじ登ってくる。


 親父も同じように呪文を唱えるが、俺程の威力は無くなりつつあるから、一度の呪文で2、3匹を吹っ飛ばすくらいが限度か。

 体調が万全であれば外へ出ていけるのに!

 しかしそこにまた更に強い気配がした!!

 しかも2体!


「お、おい!優平どういうことだ!?」

 親父も焦ってきている。


「そんな!嘘だろ!?二つ目の門!?いや、裏鬼門だ!!そっから2体強い鬼を感じる!」

 ヒョイとその強い気配が結界の上に乗り上げて見下ろした。


『ヒッヒッ、やっと出て来れたやん!聡明!あんさん、なんや病気なんか?いや、ちょっと違うな?』

 と結界の上に乗った鬼の1人が喋る。

 よく視るとそいつら2体は同じ顔をしている。双子か!?


『兄さん…もうこの世は1200年経ってるんやで?それにワシらこないなとこで弱った奴相手にしてる暇ないやろ?酒呑童子様んとこ行かな!いい身体も見つけなあかんね』

 ともう1人の鬼は言う。


『そうやったな?とりあえずこの結界ぶっ壊して鬼達を侵入させてから行こか、弟よ』

 と笑う。

 俺を無視しやがって!!


「おい!貴様ら!俺を無視してんじゃねぇ!今はちょっと弱ってるからって馬鹿にしやがって!!何者だ!!」

 とクラクラしながら怒鳴ると


『ああ、生まれ変わりやから知らのうて当然やな?ワシは金剛山の鬼や。金熊童子っちゅーんや!こっちは双子の弟の石熊童子や。ワシはな、酒呑童子様の四天王の1人やで」


 四天王の1人!?コイツが!?


『ワシも四天王なりたかったんやけど…兄さんのおまけや。弟でも双子なのにな』

 と石熊童子が文句を言う。


『ほんまはお前を殺しておいた方がええんやけど、そんな弱った身体の奴、いじめてもしゃーないし?生まれ変わった酒呑童子様がきっとお前と会えるのを楽しみにしてるやろし…』


『せや、残りの四天王もまだあっちにおるしな…全員復活の儀を行ったら百鬼夜行も派手にせなあかんな!!だからなんや兄さん、ワシ楽しみやわ!』

 俺は剣を握る。


「お前らはここで仕留める!!」


『ほお?そんな身体でか?死にたいんか?そんなに言うなら遊んでやってもええけどね?』

 と金熊童子は拳一つで結界を叩き割った!!


「くっ!!」

 シュタリと2人は庭に降りて、鬼達もゾロゾロと後ろに控えた。


『ふうん!?なんかまだ気配あんね?…女の鬼の匂いや…。しかも人を食ってない鬼なんて…珍しな?使役しとんちゃうんか?なんや?』


『隠れとんね?なんでや?大事なん?』

 と鈴の匂いを嗅ぎつけたか…。クソめ!


「お前らは土足禁止だ!!」

 俺と親父は呪文を唱え邪魔をする!


【青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女】

 光が2人に向かうが直ぐに弾き飛ばされてしまった!


『ふひ!弟よ!隠してる鬼女連れてこいや!おもろいから顔見たろや!』


『へーい兄さん!!』

 と石熊童子が動こうとした時だ。


【臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前】

 の呪文と共に六芒星の黒犬の式神に乗ったミッキーとイドミが現れ、上から双子の鬼を黒い光の球で攻撃した!


『なっ、なんや!!?なんやあの髪!!瞳!!カッコいいし、キラキラしとって綺麗やなぁ!!どないなっとんや!?』


 しかし攻撃は擦り、金熊童子の頰に少し当たって傷がついた程度だ。コントロール下手くそか!?


「うわっ!双子!?何だよこいつら!!」

 とミッキーが言い、イドミ達も降りてきた。

 イドミは


「ミッキー様…!こいつら…金熊童子と石熊童子でスルメ!」

 と言うと


『あ?なんや!?よく見たら…!椿やないか!!なんや?復活しとったん?相変わらずええ乳やな!』


「イドミ!知り合いか!?この関西鬼!」

 とミッキーは言う。イドミは…


「酒呑童子の四天王…の1人デスク…」


『イドミ?それが今の名前かいな?椿。変なの』


「煩いです!昔の名前で呼ばないで!私は光邦様に仕えているの!昔の主人の友達の手下のくせに!」

 と言う。


『え?ほな、このキラキラさんは芦谷堂満の子孫ちゅーことか?』


『兄さん…芦谷の子孫弱みでも握られとんやないの?昔から聡明に騙されて一時期弟子にさせられて、コキ使われとったやん。子孫の代までそんなんさせられとん?』

 と石熊童子がミッキーを馬鹿にしている。


「やかましい!!昔の因縁を持ち出すな!俺は俺の正義を貫いて、お前たち悪鬼を滅ぼす!!」

 とミッキーは手印を切り、また呪文を唱え双子を襲う。

 黒い光の球が襲いかかると同時に黒い式神犬やイドミが鬼達に突っ込み蹴散らして行く!


『おっと!危ないな!……ならお返しやで!』

 と球を綺麗に避けた金熊童子は庭の大きな石を浮かせて、ミッキー達に投げた!

 しかしイドミが石を割り防ぐ。


「優平!!あいつが来るぞ!!結界を強めろ!!」

 と親父が護符を投げつけ、侵入しようとする石熊童子はピリっと指を引っ込めた。


 俺も何とか結界を強める。朱雀は鶏のまま頑張って口から申し訳程度のガスバーナーみたいな炎を吐いたがもちろん効かない。


 ちきしょう!体調が万全であれば!こいつら2人の血見れたのに!!だが、家じゃ血が散るか…。

 そして石熊童子は結界を破壊し、親父を床に叩きつけたが、親父は咄嗟に式神を身代わりに逃げた。

 ボキボキと手を鳴らして


『けけ、逃げた…弱っ!次はお前やな?あ、殺しちゃダメやん』

 と俺に向かってくる。式神をいくつか身代わりにするも屁とも思わず向かってくる。


「く…くそ…六根…」

 と唱えようとして首を掴まれて投げつけられた。


「ひえええ、優平!!」

 と親父は柱の影からなんとか式神をだすが石熊童子には効かない!!


 額から俺の血が流れた。


『けけけ、血!!土御神の血やん!!ええね!もっと流し?』


 くそっ!…熱がぶり返しそうで、気持ち悪りぃ…。視界が歪む。石熊童子がこちらにやってきて笑う…。くっ!!


 その時だった。


 物凄い殺気がした。

 揺れる視界に捉えたのは…


「優平くん…を、よ…よくも…こんなに血が…」


「す…鈴…来るな…」

 しかし鈴は怒りで目が赤くなり、角も出ていた。


『ほお、あんさんが…隠してた鬼か?ほおおお!!ええな!可愛いやん!』

 と石熊童子は興奮した。


 鈴は朦朧とする俺の元に駆け寄り、額の血を舐めた。そして……


「ううう…うちの旦那様に…!何をするんですかっ!!!!」

 と怒鳴った。鈴…めちゃくちゃ怒っている!!そして、凄い速さで石熊童子の間合いを詰めて、石熊童子の頰を普通にビンタしたのだが、石熊童子は庭を越えて塀を壊し、尚も何処かへ吹っ飛んでいった!!

 それに闘っていたミッキーやイドミ、金熊童子も固まった。


 鈴は尚も怒り、


「うちの旦那様に怪我をさせるだけじゃなく!綺麗なお庭まで荒らすなんて…許せないです!!」

 と髪の毛を逆立たせて、もはや怖さすら感じる。

 金熊童子は弟の飛んでった方を見て


『嘘やろ!?なんやあの娘は!使役鬼ちゃうんか!?』


「使役鬼??私は優平くんのお嫁さんです!!」

 と言い、金熊童子に近寄り、ギロリと赤い目で睨みつけた。


『ま、待て!使役鬼やないならお前程の女は俺たち酒呑童子様の元に来るべきやろ?こんなとこに居らんでもー…』

 と金熊童子は慌てたが鈴はまた手を上げた。

 金熊童子は咄嗟に顔を腕でクロスしてガードしたが下がガラ空きになり鈴はサンダルを履いていたが金熊童子のアレを蹴り上げた。


『ぎゃひっ』

 と言う痛そうな声と共に弟と同じ方向に吹っ飛んでいった金熊童子。


 ミッキーも他の鬼を呪文で片付け鬼門と裏鬼門は地中に消えた。


「鈴さん強え…」


「最強鬼嫁…」

 とイドミも言っていた。


 俺はクラクラしつつも鈴に駆け寄ると鈴の目は普通に戻り俺を支えた。


「優平くん!!」


「鈴…さっきの…力は…」

 鈴は首を振ってわからないと言った。

 だが、思い当たるのは俺の血を舐めたことしかない…。

 そこで俺はクラクラして気絶した。鈴が叫ぶ声が遠くなった。

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