第32話 優平くんの血と朝

 鬼との闘いから朝まで優平くんは倒れて目覚めず、ミッキーくんは結界を修復し、イドミさんと今日は土倉家に泊まった。


 私はあの時、部屋で言付け通り隠れていたけど心配だったし、何より嫌な予感がしたり、強い鬼の気配を感じて民代さんを残し優平くんの元に駆けつけると…怪我を負い、優平くんが額から血を流し、あの鬼たちに殺されそうになっているのを見て怒りで震えた。私の中に【殺してやりたい】という悪意や憎悪が満ちた。


 気が付くと優平くんの血を舐めていた。すると力がどうにも漲ってくるではないですか。


 そしてあの侵入者を追い出したくて堪らなかった。綺麗なお庭も荒らされて私はさらに怒りが湧いて止まらず、一発ビンタしてやろうとあの石熊童子とか言う奴に一発ビンタしてやったらそいつは物凄い勢いで壁を破壊して飛んで行った!


 そしてもう1人にまたビンタしようとして近付くけど腕で顔をガードしていて下半身がノーガードだったのでサンダルで股を蹴り上げると同じように吹っ飛んでいった。


 ようやく我に返ると優平くんは血の気が引き、倒れたので駆け寄って叫ぶけど優平くんは目蓋を閉じていた。


 それから頭を治療され痛々しい包帯を巻かれ眠っている。私は付きっきりで看病して何とか熱は下がりほっとした。


「土御神の血は鬼にとって栄養になると聞いたことがある。特別な血だとか、土御神聡明の母親が妖術を持つ狐だったとか特別な力を持つ神のようなものだったからとかいろいろ諸説あるようだ」

 とミッキーくんが語った。


「ですから鬼達はこぞって優平様を狙うんですヨーグルト」

 とイドミさんも言う。


「優平くんの血…すっごく甘くて美味しかった…。飲まされたことはあったけどあの時は味を味わってる暇なくて」


「あの時?」

 ミッキーくんは怪訝な顔をになる。あの時ってあの不思議なお堂で優平くんに男避けをかけ直した時だった。

 恥ずかしいから赤くなり黙る。


 それを見て半目になるミッキーくん。


「まぁ、いいけど…。こんな話が伝えられてる。使役鬼以外の悪鬼は憎悪で力が湧くが、聡明と闘った鬼が聡明に傷を作り、その血が鬼に少しかかってしまい、舐めると力が溢れて堪らなかったそうだ。それ以来鬼達は聡明を狙ってくるようになったんだと」


「ではやはり私があんなに強くなったのは優平くんの血の力…」


「憎悪が消えると元に戻るみたいだな。闘いが終わると鈴さんから強い力が消えたように思う」

 優平くんを殺そうとしたり、庭を荒らされたりしたのであの時はもしかして


「私…悪意や憎悪のまま優平くんの血を摂取すると…強くなってしまうのですか?」

 ミッキーくんは


「普通の悪鬼ならそのまま理性も失い誰彼構わず襲いかかり、人を殺すけど鈴さんはちゃんと理性はあった。こんな例は初めてだ。俺も解んねえ」

 と腕を組むミッキーくんだった。


 *

 翌朝すっかり熱は引いて、少し頭は傷のおかげでズキズキはするけど、なんとか起き上がろうとして布団から出ようとして気付いた。

 鈴さんが僕の側でスウスウと眠っていた!!


 うっ!!!

 美しい!!!


 思わず昨日のことを忘れそうになるくらい魅入る。ドキドキして頰を撫でると薄ら目を開いて数秒見つめ合う。


「優平くん…熱は?」


「さ、下がったよ」


「頭の怪我は?」


「少しだけ痛い…けど大丈夫」

 そんなことを喋りつつ覚醒してきて


「な、何で布団にいるの?」

 と聞いてみると…


「だって…ミッキーくん達に私のお部屋を貸したんです…眠る所がないからと民代さんがご夫婦だし一緒に寝られてはと…」

 民代さああああん!!客室くらい余ってそうなのに!!!


「そ、そう、もう大丈夫だし、起きて朝食にしようね。今日はお休みだったね」


「優平くん…!死んじゃわなくて良かったです…!」

 うるりと瞳から涙が溢れる鈴さん。余程僕を心配していたのだろう。そんなのを見ると堪らない。

 布団の中で彼女の涙を指で拭い、


「鈴さん……。僕を心配してくれてありがとう。昨日は情けなくてごめんよ…。本調子ならあんな鬼に負けなかったよ。鈴さんが闘うことも無かった」


「でも…私怒りで…あんな力が宿るとは思わなくて…落ち着いたら消えたけどやっぱり私鬼だから……って思って。うう、強い私嫌いですか?怖いですか?」

 と彼女は少し震えた。


「僕が鈴さんを嫌いになるなんてことは絶対にないよ!!怖くもない!怒った鈴さんも好きだよ…」

 すると鈴さんは照れて赤くなり最高に朝から可愛い笑顔を向けた。はっ!ヤバ!!

 こんな一緒の布団の中でそんな笑顔されちゃ…。

 しかし鈴さんは


「嬉しいから…優平くんの好きな太腿少し触っていいですよ…」

 と僕の右手を取り自分の太腿に当てる。


 うっ!!ヤバイいいい!!

 柔らかい…スベスベで理性が…!し、しっかりしろ!僕!!


 鈴さんはパジャマでは無く、和式の浴衣寝巻きだから生足が直ぐに触れる。


 うぐうううううう!!やめて!!朝から!!


「す、鈴さん…あの…も、もういいから…」


「そうですか?もっと触ってもいいんですよ?」

 ひいいいい!!何を言ってるのこの子は!!こんな朝から!!だが、右手が!!まるで意思を持つように太腿を撫で始め!何やってんだ僕は!そして静まれ右手!!


 自分がどれだけ太腿フェチなのか思い知った所でとにかく僕はもはやヤバイ状況でこのままだと取り返しが付かなくなりそうでようやく手を止め、さっさと起き上がり慌ただしく洗面所に逃げ込んだ。


 *

「おはようございます優平様、お熱は下がりました?あら、それとも上がりました?」

 と民代さんがからかうように挨拶して優平くんは包帯の頭を抱えて赤くなりちょっと睨んでいた。


「おはよう…ございます…」

 ミッキーくん達は既に起きていて朝食の席にきちんと正座していた。朝ごはんをよだれを垂らしそうな勢いで見つめている。この家で初めて朝食を食べた私みたい。


「ミッキーくん、迷惑かけたね、昨日から。結界も貼り直してくれてありがとう」

 と優平くんはお礼を言うと


「はーっはっはっ!そんなもの容易いわ!!…………ふかふかのお布団とお風呂貸していただき有難う御座いました…」

 と笑ったと思ったら土下座した。


「ゆっくりできて良かった。では食べよう。鈴さんも…」


「はい!」

 と私も席について四人で朝ごはんを食べた。

 ミッキーくんとイドミさんは夢中でガツガツ食べていた。


「ミッキーくん良かったら帰りにお弁当に詰めてあげるから持って帰ってね」

 と優平くんはにこにこと言う。


「有難き幸せ!!」

 ともう完全にミッキーくんは配下か何かのように頭を下げていた。


「…あれからイドミと少しあの双子を追ってみたんだが…地面に派手な穴ぼこは二つあったが、あいつらの気配はしなかった…」

 とミッキーくんは報告した。


「そう…あいつら…酒呑童子の四天王の1人と言ってたね。取り逃したことは大きい。人の身体を乗っとるようなことも言っていた…。そうなると用意に斬れなくなる。乗り移った本体は人なんだから」


「昨日の四天王はイドミのこと椿と呼んでたけどそれがお前の本当の名前か?俺が適当に井戸から出てきたからイドミって付けたけど…」

 するとイドミさんは


「いえ、椿は堂満様が与えたお名前です。今はミッキー様の使役鬼なので私のことはイドミと今まで通りお呼びくださいまセクシービーム」


「…まぁお前がそれでいいならいい」

 とミッキーくんはそれ以上追求はしなかった。

 イドミさんは今日は可愛らしい花柄のワンピースを着ていて


「ミッキー様帰りはデートして帰りまショートケーキ」

 と言って、ミッキーくんは赤くなって


「ふふ、ふざけんな!タイムセールとか行かなきゃだろ!」

 と怒鳴り、優平くんと私はそんな2人を微笑ましそうに見ていた。

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