第20話 鈴の初めてのお使い
私はガサリと民代さんとスーパーのチラシを見ていた。
「安いですね…この…カップ麺」
「カップ麺?って…あのお湯を入れて作るやつですよね?」
とまた私はドラマ知識を思い出す。この家では食べたことがなかった!
「ええ…そうです。この家の食材は一応有機野菜を仕入れてもらっているし、肉も魚も注文しているのですよ…だからスーパーなどはあまりうちは行かないのです!」
と民代さんはここに来てからあまりカップ麺を食べなくなったといった。
「ですからこのようなチラシに載ってるカップ麺がたまに食べたくなるのですよ…」
私もついゴクリと喉が鳴った。
「わ、私もこれ…食べてみたいです…お湯を入れて3分…というの…」
一体どんな味がするんだろ!?
とチラシを見ていると優平くんがやってきた。
今日は土曜日だったから優平くんも制服じゃない。グレーのパーカーの下に縁と黒と黄色の模様のTシャツを着て青いジーンズを履いていた。
「何見てるの?ん?カップ麺か…。だめだよ?こんなの」
「えっっ!!?な、何で!!?」
「えっ!!?逆に何で!?こんなのただのおやつか夜食じゃないか!」
「そ、そんなじゃあ、これ食べれないんですか?」
とガクリと私は畳に崩れると民代さんは
「そんな事はないですよ?鈴様!買ってくればいいんです!ついでに私の分もお願いします!」
「ちょっと民代さん!!ダメですよ!不栄養だし!」
と言うので
「優平くん!お願いします!買いに行かせて!!ここ近所にできた新しいスーパーらしくてここに地図もあるから私でも行けそうなの!私、買い物してみたいの!レジってとこでお金を払うのでしょ?奥様達は皆やってるんですよね?」
「なっ!確かに近くだけど…!鈴さん1人で買い物なんて…き、危険過ぎますよ!!」
「大丈夫です!私だってスーパーくらい何度もドラマで見たし!!お金も民代さんに教えて貰ったし!カップ麺の漢字は難しいけど、このチラシのと同じ柄を探せば大丈夫ですよね!?」
「そ、そうだけど!外とか!!」
「鬼は夜にならないと出ないでしょ?まだ午後13時ですよ?すぐそこのスーパーに何時間もいませんから!」
と私は絶対に1人で行ってみせるぞ!と意思を示すとようやく優平くんは折れた。
「わ、わかったよ…スーパーまでは歩いて7分くらいだし…。車とか信号とか横断歩道とか…」
「判ります!!何度か見ました!!」
民代さんはおかしそうに笑い
「まぁまぁ、優平様ここは鈴さんに任せてお使いさせてみたら?」
「…………気をつけてね…。それから出かけるならその短いスカートじゃなくて長いスカートかズボンしなよ…」
と注意された。優平くんが太腿好きだから私は短いの履いてたのに長いの履けとは。
「鈴様、優平様は他の方に鈴様の太腿見られたくないんですよ」
と言われた。
「そうだったのですか?ごめんなさい…私…私の時代…あまりいい着物持ってなくて、ボロい子供のお下がりを無理矢理着ていたりしたから…あんまり足を気にしたことなかったんです」
村の男達には何か見られまくった記憶がある。
いやらしい視線だったけど、私が鬼だから近寄って来なかったのは幸いだ。
「………鈴さん、ちゃんと気をつけてお買い物出来たらご褒美に何かあげるよ。インターネットで欲しいものあったらさ…」
と言ったので私はうなづいた。
長いスカートに履き替えて私はお金をお財布にしっかり入れてエコバックも持ってそろそろと結界の外に出る。
*
僕は鈴さんが出て行ったのを見て式神を取り出して
【ネコ】
と書いた。
黒い猫の姿になる式神。これにも僕の感覚は伝わるのだ。式神がどんな姿をしていても死ぬようなことがない限りは僕に伝わる。
そしてもう一つ…九字を軽く切り猫の額に指をトンとつけ、
【開眼】
と唱えると猫の目には五芒星が浮かび視覚を僕の脳に送るようにした。
「まぁ優平様、猫で後をつけるのですか?でも流石にスーパーには入れませんよ?」
むっ、とした僕は木札を取り出して十二神将の1人を呼び出した。
ボワンと木札から玄武が現れる。黒髪でイカツイヤクザみたいな風貌の男が現れる。
「何でしょうか?ご当主様?鬼ですかい?」
「いや、鬼は出てないよ。僕のお嫁さんの鈴さんがスーパーに向かったから気付かれないよう後を付けて鈴さんに変な男が近寄らないか見張っておいてくれない?もし変な男が彼女に声をかけたらわかってるよね?」
「へい…。バレないようにバラして海に捨てておきやすか?」
と物騒なこと言った!!
「ちち、違うよ!犯罪だめ!絶対!!ちょっと睨みを利かせておいてよ…ねっ!?殺しちゃダメ」
「判りました…」
そして黒猫と玄武はさっさと鈴さんの後を付けて行った。
鈴さんは信号の所で止まっていた。
僕は黒猫の目で鈴さんを追いかけ、玄武も影からこっそりと後をつける。
鈴さんはチラシの地図を確認しつつ、信号が青になると急いで渡った。そんなに急がなくてもいいのに。
ほら誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ!」
と転げて目の前に鈴さんの……
*
「ちょっと優平様…。鼻血が垂れてますよ。何見たんですか?」
と民代さんがティッシュを渡す。
「なっ、何にも?」
*
「大丈夫?君…」
とその男は手を差し出した。何と金髪碧眼の異人…いや外国人だろうか?
見たところ優平くんより少し高い背丈で学生さんだと分かったけど手を取るとパチンと何か電気みたいなのが走った。
?
男は変な顔をして私を見た。
「君…ま…」
と言う所で後ろからなんか怖い人が出てきた!!
「おいおいおい、ワレ?邪魔やの?こんな所でナンパか?最近の若いモンは手が早うて困るなぁ?嬢ちゃん、はよ行き!」
と言われて私は起き上がり
「すみません!」
と頭を下げてスーパーに向かった。
「あ、き、君…」
「はいはいはい、外人は女に飢えとんかいな?判るけど真昼間からナンパなんか辞め時?兄ちゃん…」
と声が聞こえたが私は振り返らず進んだ。
スーパーに入ると沢山の人がいた。
まずは買い物カゴとカートを取るんだっけと前のおばさんがやってるのを真似た。
新鮮なお野菜や果物が目に入る。お魚にお肉まで何でも揃っている!凄い!スーパー凄い!!
お子様達はお菓子コーナーでお菓子をジッと見ていたりした。
そして私はカップ麺コーナーへ辿り着き、親切にもチラシのカップ麺は分かりやすく積み上げられ、下に【開店大安売り】と書かれていた。
開店大安売りは何とか読める漢字だ。私はカゴにいくつか積んでさっとレジに向かった。レジのお兄さんにカゴを渡すと何かポーッとした顔で私を凝視しお金の金額を告げられ貰った五千円札でお釣りを受け取った。その際、また何かパチンとした気がする。一瞬だったからお兄さんは
「静電気かな?」
と呟いた。
私はエコバッグにカップ麺を詰めていく。
やった!一人で買い物できた!案外あっさりだった!!優平くん褒めてくれるかな?
*
「何ですか貴方?俺はナンパなんてしてないよ?ヤクザですか?警察を…」
ザワリと木々が揺れ、男はまたパチリと手を震わせた。
「貴方…もか…。ん!?」
と男は僕…いや黒猫の式神をジッと見た。
そしてニヤリと笑った。
「式神か!」
そこでボンっと黒猫の式神は紙に戻り僕の術は解けた!!
*
「なっ!何だあいつ!!?」
「どうしましたか!?優平様!」
と民代さんが聞く。
「ちょっと!出かけてくる!!」
僕は急いで現場に向かう!!
するとそこにさっきの金髪青年と玄武が睨みあっている。
「げげ、玄武ー!!」
「あっ…ご当主…」
外人は僕を見た。な、何だこいつ…。ピリリと空気が張り詰めた!
こいつを見ていると何かがおかしい。この吐き気のするような怒りと憎しみが渦巻いてくる。
「………お前…土御神の者か?」
金髪青年はニヤリと笑う。
「そうか、このおじさんと言い、さっきの小娘と言い、そしてこの式神…お前は土御神の子孫だな!?」
と言われた。
「当主様…このガキ…まさか…芦谷の…」
「そう…俺は!芦谷光邦…ミッキーだ!!芦谷堂満の子孫!!お前のライバル陰陽師だ!!」
と自己紹介したが、ここは往来の真ん中だ。かなりビシッと決めたミッキーくんを無視して僕と玄武はスーパーに向かった。
「ちょっ!待てええええ!!」
無視する。
「待てってええええ!!」
と掴みかかろうとする手を玄武が止めた。
「いけませんなぁ、ご当主に狼藉は!」
「ちっ!鬼め!」
と苦々しく言うミッキーくん。
僕はそれに
「芦谷くん…悪いけど今日は引いてくれないかな?後日また連絡するから…とりあえず…」
ゴソリと僕はポケットからスマホを出して
「ライメ交換しない!?」
と言う。
「は?ライメ?何で?俺たちライバルなんだぞ?」
「いや、でも…連絡しないと後日会えないじゃないですか」
「そ、それはそうだけど!何でお前とライメ交換しないといけないんだよ!!」
「………じゃあ、連絡先を紙に書いてください、こちらから連絡しますから」
「いや!そっちの方が個人情報とかいろいろヤバイじゃねえか!!」
「じゃあ、ライメ交換で」
「ちっ!あ、えと…スマホ落としたからこっちから連絡する。電話番号を教えろ!」
と言うから番号を書いた紙を渡した。もちろん出鱈目の番号をだ。しかし何か釈然としないミッキーくんは
「ふははははっ!!逃げるなよ!!土御神の!!次あったら覚えとけよ!!とりあえずボコボコにしてやる!!」
となんか知らないけど捨て台詞を残し、去って行った。
「ご当主。あいつと喧嘩する気ですか?手伝いますぜ」
と玄武が言う。
「しないよ面倒くさいし、渡した番号も出鱈目だし二度と会いたくないよ」
「うお、エグいな」
と言っているとエコバックにたくさんカップ麺を詰めた鈴さんが僕を見つけた!!
あっ!しまった!!見つかった!!
「あっ!優平くん!!さっきの人も!!」
「あーこりゃいかんな…」
と玄武が言い、正体を明かした。
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