第19話 鬼退治と絶対領域

 すでに陽は落ちかけており優平くんは木札を3つほど出して鬼神を出す。


「貴人、白虎、六合!とりあえず母さんと民代さん、鈴さんに一人ずつ付いてね!」

 銀の髪の毛の貴人という少し年寄りな身なりの良い礼儀正しい鬼と白髪に白い虎柄のスカーフを着けた少年みたいな白虎という鬼に六合という茶髪に明るい独特の喋り方の青年の鬼が現れた。確か関西弁とかいう喋り方。


 六合さんが


「先代の奥様やないか、お久しぶりやな。んでこっちのえらいべっぴんさんが今のご当主様の鬼嫁さんやな?成る程、人に近い鬼やね?あんたからは人の肉なんか食った気配ないわ。ご当主の血は感じますけど」

 と言う。


「とにかく早く帰らなくっちゃね」


「ええ、そうですね…。と、陽が…」

 と民代さんはとうとう沈んでしまう陽を見つめる。


 いつかのように地面から鬼門が現れる。


「来るで!!貴人、白虎もきばりや!!」

 と六合さんが叫び


「ええ、お任せを」

 と貴人と呼ばれた年寄りの鬼は手をかざし私達三人に薄い膜の結界というのを張った。


「女共…そっから動くんじゃねえぞ!」

 と白虎という少年が叫ぶ。


「あらあら白虎ちゃんも久しぶりね、後で飴あげるわ」

 と小夜子お母様はにこにこ言う。


「はっ!いつまでも坊や扱いしてんじゃねぇ!俺たち以外の鬼が見えないんだから黙ってのんびりしてな!」

 と言う。それに貴人さんは


「白虎くん、鈴様には鬼は見えるんですよ?」


「………お前…俺たちが怖いか?同じ鬼娘らしいけど人に近いからなお前」

 と聞かれた。


「私は…」

 と応えようとして鬼門から鬼が現れる。こないだとは違い、青い鬼だ。やはり人の形をしておらず、今日は痩せ細った体躯に胸に一つ目が有り、背中には硬いトゲが何本も着いていて、頭に口が付いていて、尖った牙が見えた。


 それに地面に着くほどの長いバサバサの髪の毛だ。腕や足と言ったものは無い。蛇みたいだと思った。蛇の頭に髪の毛がついているような。


『土御神!!!憎い、憎い、憎い!!よくもよくも我等を閉じ込めたなあああ!お前を喰ってやる!そして我等の世を再び取り戻してやるのだああ!…グギギ、八つ裂きにしても足りないいい』

 と青い鬼がシュルシュルと優平くんに向かっていく!


 そして今度は私たちの地面から青い蛇がたくさん現れた!!結界の中にいるとは言え、気持ち悪すぎる!だってうぞうぞ動いている!私普通の青大将もだめなのに!!


 しかしそこで六合さんは蛇を見て笛を吹いた。

 ピラリ~♪

 と聞こえる音色は静かな音だが、青蛇たちは音に導かれ、ひとまとまりの蛇ボールになっていき、最後の蛇が乗り上がったところで


「今やで白虎!」

 と叫び白虎くんはその青い蛇に手をかざした。すると地面に白くて大きな口が開いた。口には鋭利な牙が沢山つき青い蛇をパクリと飲み込んでモグモグした後、ペッと青い球を吐き出し、それを六合さんが足でぐしゃりと壊した。


「ふー、こっちはオッケーやな!」

 と六合さんは一仕事終えた。

 優平くんはと言うとまたあの剣を握りおかしくなっていた。

 目を血走りながら青鬼と闘いながら


「憎悪か!憎しみに支配されたドス黒く救われもしないお前の血…!早く見てええええ。そうだよ?俺はお前達を地の底に落とした憎い憎い男の子孫だよ?殺したいほど憎いんだよなぁ?クックッ!」


『憎い憎い憎いいいい!土御神いいいい!!』

 青鬼のバサバサの髪の毛が小さな蛇の群れになり優平くんに遅いかかる!


 六合さんは


「手伝おかー?ご当主様ー?」

 と聞いたが


「はあ?俺の獲物に手を出すな!黙ってろ!」

 と言われて六合さんは言う通り黙った。

 もう民代さんと小夜子お母様は貴人さんと世間話を始めている。どこどこの温泉地がいいとか。


 優平くんは小さな蛇達を式神を身代わりに噛ませ式神達は蛇ごと自爆してぐちゃりと肉の破片が辺りに飛び散り、破片を踏みつけながら本体へと歩いた。


「ああ、青鬼、憎悪の青鬼よ…。もっと怒るといい、憎むといい、恨むといい…その血を俺に見せてくれ?大丈夫。俺が憎しみを受け止めよう…」

 とまた恍惚になる。変態降臨ってやつだわ。

 青鬼は


『死ねえええええええ!!』

 と優平くんに凄い速さで向かってくるが白い剣で自分を守り、優平くんに触れようとしただけでやはり青鬼は弾かれた。


 この前の様に優平くんは呪文を唱えて黒い剣から倒れた青鬼が網に縛られる。


『グアアッー!!!』


「ああ、いいね、でもなんの反撃もできないなんて俺への憎悪はその程度か?悲しいね。もっと怒って憎んでくれていいんだよ?」

 とげしげしと青鬼を蹴り上げ、


『ギャア!!い、痛い!焼けるようだ!!痛いいいい!』


「そりゃそうだよ。お前ら悪鬼に優しいわけある?敵である俺が…。まぁそろそろ飽きてきたからそろそろ俺を血塗れにしておくれ?そうだ、今日はバレー方式でいくか!」

 と優平くんは白い剣と黒い剣をガチンと合わせて空中に白と黒の混ざったような球を作り出した。


 優平くんはひらりとその球に近づいてそれを先ほどのバレーのアタックのように青鬼に向けて投げた!


【六根清浄急急如律令!!】

 と叫びながらアタックが炸裂して青鬼の身体がバラバラになり真ん中にいた優平くんはやっぱりバシャリと鬼の血の雨を嬉しそうに浴びた。


「終わったな…俺は先に戻る」

 と白虎くんは鬼門が潜ると共に木札に戻った。

 貴人さんも結界を解いた。


「あら?終わったのぉ?」

 と小夜子お母様が言う。


「はい、奥様終わりましてございます。私もそろそろ戻りますか」


「またお茶でもしましょうね!貴人さん!」

 と民代さんも言い、頭を下げて貴人さんも木札に戻った。


「んじゃ俺も戻…」

 と六合さんが言うと


「待て六合…」


「えっ!?な、何?なんか用なん??」


「六合は先に母さんと民代さんを連れて戻れ、俺は鈴とゆっくり戻る」

 と言うと六合さんは半目になった。


「へーい、あんまやらしいことしたらあかんよ?こんな子に」

 と一応六合さんは釘を刺していた。


「ほな、奥様、民代さん捕まってくだせえ…。鈴様…気ぃつけてな?あんまりあれやったら殴ったり?」


「さっさといけえ!!」

 と怒鳴られて六合さんは小夜子お母様と民代さんを担ぎ、ひらりと屋根に飛び乗り行ってしまった!!


 優平くんはまだ剣をがっちり握ったままだ。これは不味い。と反射的に私は思ったけど瞬時に抱きしめられた!!


「だ、だから外ではだめええ!」

 と赤くなったが、ヒョイと担がれて物凄い身のこなしで六合さんみたいに屋根の上をヒョイヒョイ飛び回り驚いた!


「この辺でいいだろう…」

 とストンと地面に降りるそこはどう見ても人気もない場所の何かの廃棄レストラン裏だった。ど、どこ??


「大丈夫、こんな所誰も来ないからいいだろう?」


「は?」

 何がいいのか判らない。

 すると優平くんは剣を持ったまましゃがんで


「何って…鈴の絶対領域だよ!」


「え?何ですか?それ?」

 と言うと短パンとロングニーソの間の太腿の肉に恍惚な表情でキスをされる。


「ひゃあっ!!」


「ここが絶対領域だよ!鈴!このっギリギリのとこ好きだよ、ムラムラするし!」

 ええええええ!!!

 だめだ、何とか何とか剣を取り上げないと!!

 すると優平くんは剣を握り閉めたまま私の下半身に抱きつきながら顔を寄せて今度は剣を使いながら私のお尻をチョイチョイつつきだした。


「本当は触りたいんだけどなー、へへへ、鈴ごめんよぉぉ…手が塞がっているから…」

 と言いながらチョイチョイと剣で感じてるようだ。うーん、これはこれで私も興奮してくるから不味い!変態が移る!

 私は仕方なく


「ごめんね優平くん!」

 と言い、思い切り手刀を首にたたき込みちょっと気絶させた。


 剣を取り上げて素早く優平くんのリュックにしまっておいて目を覚ますまで膝枕してあげたらようやく目を覚まし、さっきまでの事を思い出したのか赤くなったり青くなったりしながらまた謝っていた。


「はああ…ごめんよぉぉ鈴さん…また僕のせいで…」

 と反省している。私は


「優平くんは絶対領域という所が好きなんですね」

 と言うと彼は真っ赤になる。


「いい、いやあの、僕のあのあれは暴走で!」


「でも好きって言ってたし…。女の子のここばかり見てるんですか?普段から…」


「いいや!みみ、見てないよ!!」


「本当ですか?前から思っていたけど優平くんは太腿が好きですよね?」

 という目でみると赤くなる。まぁ元から鬼の血で赤いけど。


「い、いやあの…鈴さんのだけ…」

 と最後は小さくなる。


「え?聞こえないですよ?大きな声で。大丈夫です、ここら辺人気がないんですから」

 と意地悪で言うと優平くんはうううと呻きつつも


「鈴さんの絶対領域大好きだっ!!」

 と大声で叫び、こだまして、そこに偶然通りかかった自転車がスッと避けていった。心なしか自転車の人のドン引いたような目がチラッと見えた。


「ひいいいい!!」

 と優平くんはもう何も言わずに帰宅したのだった。

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