第6話 沢山のおったまげ2

 下着よりも驚いたのは洋服だった。さっきまでは着物を着ていたのに民代さんが白いヒラヒラした服を持ってくる。ゆうへいくんは白いものを着ていたけど女性はこういうのなんだ…。


「ワンピースというのですよ、下から足を通してここの穴から頭、左右は両腕を出して、最後は胸のボタンを留めます。あっ…やっぱり大きい胸ですね」

 と民代さんは言うが、ものの少しでこの洋服は着れた!!ボタンは固くて不思議な材質をしていた。石とも違う。


 大きな姿見の前で私は自分を全身見ておったまげる。誰だろう?え?私?


 服でこんなに変わるなんて…!


「まああ!鈴さん!すっごく可愛いらしいお嬢さんになりましたよ!!」

 と民代さんが喜んだ。そしてひそりと


「きっと優平様も惚れ直すでしょうね。いえ…きっと固まられますわね」


「??」


「お食事は優平様とお取りくださいね?もう優平様は待ってますよ」

 と今度は食卓へと導かれる。長い縁側を通り、一つの襖に通され


「御当主様、おはようございます。鈴様のお支度ができましたのでお連れ致しました」

 と声をかけると


「そそそ、そう!ご苦労様です!鈴さんどうぞこちらへ来て朝食にしましょう!」

 とゆうへいくんの声がして襖を開けられるとゆうへいくんは私を見て


「ふぁっ!!!!!」

 と言ったまま固まった!!


「ふふふ、やっぱり…」

 と小さく民代さんは笑った。

 そして食卓にはとても豪華なお料理が並んでいてやはり貴族だと思った。

 どうしよう私…。こんなに良くしてもらって…


「それではごゆっくり…」

 と襖を閉めて民代さんは去っていく。ゆうへいくんは固まったままで…


「ゆうへいくん?あの…どうしたのでしょう?私…変ですか?」

 と言うと真っ赤になるゆうへいくんは


「ととととと、とてもあの、似合っているよ!!鈴さん!!あああっ…そのっ…素敵です!!」


「??素敵なのは、この家やお風呂やドライヤーや他にもいろいろです!」

 と言うと


「ちがっ…そうじゃない…こんな素材がいいとは!」

 と赤くなり俯く。


「私の洋服とゆうへいくんの洋服は違うのですね」


「僕のは制服だよ。これから学校ってとこに着ていく服なんだ。男子はこう言うの着て女子は下はスカートを履く。


 鈴さんも女子の制服をいずれ着れるよ。この世のことをもう少し勉強したら一緒に学校に行こうね」

 と言う。ガッコウ??

 しかしそこでお料理が美味しそうでお腹が鳴る。


「あっ…すみません…」


「いいんだよ?1200年ぶりのご飯でしょ?沢山食べて!」

 改めて見ると白いお米と卵?が綺麗に巻かれているし何かのお汁に真っ白なお豆腐。海苔なんて高級なものもある。梅干しは判る。お魚も1匹丸々と綺麗な器に乗っていて泣いた。


 ひえや粟やお芋くらいしか食べてこなかったし私。魚も小さなものを漁師に分けてもらい、それを家族で分けて食べたりしたから常にお腹は空いていた。


「鈴さん!?大丈夫だからね?さぁ、食べて…お箸は使える?」


「…はい…」

 とゆうへいくんは


「では、いただきます」

 と手を合わせる。私も


「いただきます」

 と手を合わせてお米を口にしただけで美味しすぎて倒れそうになる!!夢中で他のもガツガツ食べた。あまりの食べっぷりにポカンとしていたゆうへいくんは微笑んで上品な食べ方をしていて私は恥ずかしくなりゆうへいくんの真似をしてモソモソ食べることにした。


 夢なんじゃないかと今でも思う。

 食事が終わるとまたゆうへいくんは


「ご馳走さまでした」

 と手を合わせたから私も真似た。


 それからゆうへいくんはガッコウに行くからと家を開けると言った。夕方には帰ると言った。

 どうしよう…とても寂しい…。

 しゅんとしているとゆうへいくんは


「そそ、そうだ!これ!!渡しておくね。スマホだよ!僕の番号を登録しておいた。もしこれが鳴ったら、ここのボタンを軽く押したら僕と離れていても話せる。通話が終わったらここを押して…」

 と操作を教える。内線電話の持ち運べるタイプだとゆうへいくんは説明した。


「いつ…鳴りますか??」


「うん!!お昼と帰る時、夕方頃かな!?」

 と照れる。メールやチャットは今度また教えるよ。いきなりは無理だからね…」

 と言って靴を履くのに寂しくなる。行かないで欲しかった。


 思わずゆうへいくんの服を掴んで引き留めてしまう。ゆうへいくんはしょげた私を見て赤くなり


「そそそ、そんな顔しないで!!…行きたくなくなるよ…くくくく、くそううう!だめだ!今日は行かない!!」


「ご当主様…何を言っているのです?」

 と民代さんが注意したがブンブン首を振りゆうへいくんは懐から人型の紙を取り出して何か筆ではないけどそこに何か書いた。


【土倉 優平】


 何て、文字が書いてあるが判らなくて不思議に思っていると


「これ、漢字だよ。僕の名前が書いてある。上が苗字で下が名前だよ。つちくら…ゆうへい」

 と指差して行く。


 優平…漢字という文字ではゆうへいくんはこう書くのか。む、難しい…。

 庶民の私は文字を書くことが出来なかったし。


 そして優平くんはその人型を手にしてもう一つの手の人差し指で空に五芒星を描き、それが一瞬光った!そしてそれをクルクルと紙に押しつけるとボンと人型が変化してもう一人優平くんが現れた!!


「ご当主様…ダメですよ!こんなことに式神を使うとは!!バレたらどうするんですか!!」


「だだだ、だって!!鈴さんが鈴さんが!!」

 と言うので民代さんはため息を吐いて


「では式神の方をこちらに置いて置きましょうね?どうせ身代わりなんですから繋がってるでしょう?」


「うっ…っっ」

 と言う。ガッコウは大事なのよね。私旦那様を困らせているんだわ。


「優平くん!私待ちます!お帰りになるの!!」

 と言うと優平くんは


「えええー?折角出したのに!!くうっ…まぁいいいよ…。

 僕の身代わりだけでも寂しくないよう置いておくよ…」

 とまた靴を履き直す優平くん。しかし民代さんと身代わりに


「ちょっと後ろ向いてて!」

 と言うと民代さんはやれやれと身代わり優平くんと後ろを向いた。


 そして優平くんは素早く私の額にキスを落とすとにこりと照れて笑い、


「いいい、行ってきます!!いい子で待っててね!!」

 とだーっと玄関を出て行った!!

 私は少し幸せになる。

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