第7話 身代わり式神の優平くん
本物の優平くんはガッコウに行ってしまった。
民代さんは
「鈴様…。そんなに悲しまなくともこちらの式神の優平様がいますからね?これは確かに本物ではありませんが例えばこうして…」
と民代さんはいきなりおでこを指で弾いた。
式神の優平くんは額をさすった。
「このように本体にも痛覚や触覚が伝わります。しかし、痛覚は伝わっても式神が例えば死ぬような傷を負っても式神が消えるだけで本体の優平様には傷はつきませんし、死にません。
式神は喋りませんが本体の優平様は式神を自分の身代わりとして離れていても操ることができます。陰陽師として優平様は大変優れた力をお持ちですから。普段ビビリですが」
と言う。
「ビビリとは??」
「臆病者と言うことですよ。ほらいつもおどおどしてるじゃないですか!土倉の当主なのに!」
「臆病者…?やはり優平くんは私のこと鬼だから恐ろしくて震えているんですか?」
すると民代さんは
「それはないですよ!鈴様に対しては違う意味で臆病者ですけどね!ふふっ、あの方は鈴様が子供の頃から大好きなのですよ、鈴様がとても美しいおなごですから!」
「まぁ…そんな!私なんて…!ただの嫌われ者なのに」
「鈴様はお綺麗ですよ!誰が見ても!自信をお持ちになってください!優平様のお嫁様になるのですから。
まぁ正式な祝言…。今は結婚と言いますものは優平様が18で学校を卒業したら執り行われますが、陰陽師家系の中では既に鈴様は優平様のお嫁として蘇ったのです」
「でも…民代さん…優平さんのおとと様やおかか様はいらっしゃらないのですか?」
と言うと
「先代の当主様…。つまり優平様のおとと様…今はお父様と言います。お父様は土御神家の血を引く子孫ではありますが、陰陽師としての力は弱く、おかか様…お母様は一般の方でした。もちろん力はありませんでした。
しかし優平様が産まれた時に、この世のものとは思えない力を持ち産まれてしまい、その瞬間から当主の座は優平様に移られたのでございます」
と民代さんが言った。
「この世のものとは思えない?陰陽師の力?」
「そうです。土御神聡明という高名な陰陽師の力を引き継いだとか生まれ変わりとかで使役鬼達も優平様の魂魄を見て、そうだとおっしゃられたのです。
以来…優平様は7歳まで親元で過ごされ、その後は土倉の当主として夜な夜な鬼を退治する陰陽師として活動をされています」
「優平くんのお父様とお母様は?どうなったんですか?」
「ご当主を優平様に譲り、今は離れで静かに小説を書いて暮らされております。
現役の頃はお父様が鬼を退治しておりました。お父様は小説家なのです。僅かとは言え、土御神の血を引く者は鬼に狙われやすく、結界に守られています。まぁ少し落ち着いたらお会いできますよ」
と民代さんは言う。
ショウセツとは?何だろう?
「まぁ、現代の文字など覚えることからですかね?鈴様、大変ですが目覚めた以上は頑張りましょうね?」
とにこりと言われる。
「あの…それでこの式神の優平くんはどうしたら?」
と言うと、
「まぁ喋らないだけですが、指示を与えたら何でもしてくれますよ?今は鈴様の言うことなら何でも従うし、鈴様の口で守れと言われれば守ります。
肩を叩けと言われれば叩きますし。従順な優平様のそっくりの言うこと聞くお人形と思ってください!もちろん…感覚は本体の優平様にも何となく何をしているのかは伝わるんですよ?」
とそこで口を寄せて…
「例えば式神優平様に口付け…キスなどをしてもね」
と言われて赤くなる。
「それでは…まだ案内していないトイレ…。ええと、用を足すことで合ってます?オシッコとかの場所の説明と使い方です」
「あ…確かに…。ご飯も沢山食べたし…」
と恥ずかしがる。
「平安時代はどのような排泄をしていたのかしら?」
と興味深々で聞かれたが私は
「えっ!?……ええと…。穴を掘ってその辺の木の枝や葉で拭いて埋めるだけです」
と言ったら絶句して白目になる民代さん…。
ええ?一体今はどうなってるの??
そしてトイレと言う用を足すところに連れられて今度はこっちが絶句した。
「何ですか!この部屋!?用を足すだけの部屋なんですか!?」
「そうです。ちゃんと扉があり、男女別に作られております。見られたくないですからね。それに木や葉ではなくこのトイレットペーパーで拭いてくださいね」
と白い丸まったよく判らないのをピッと伸ばされてギザギザしたところで切って見せてくれた。これでお尻やらを拭いて座っている便座の穴に吹き終わったら落とすそうだ。そして
「このボタンですが、こっちのがオシッコのとこ洗うボタンで、こっちがお尻を洗うボタンです。絵がついてるでしょ?
押すと便座から水が出てお尻やらに当たりますが驚いて立ってはいけませんよ?洗い終わったらまたボタンを押して止めてください。そして全部終わったらこちらのボタンを押して流すのです」
と実際にボタンを押してトイレットペーパーを千切り、投げ入れてジャーと渦を巻いて水の中に吸い込まれて行くのを見てたまげる。
あ、たまげるは驚くか…。
「凄い…」
としかもう言えなかった。
とりあえず初トイレを使い、民代さんに恥ずかしいけど扉の前で待っていてもらい私は用を足した。ちゃんとボタン操作もできた!!驚いたけどなんとかトイレを覚えたのだ!
民代さんにも褒められて手を洗う所も教えてもらった。
お風呂とトイレは何とか覚えたわ!!
たったそれだけしかまだ判らないけど嬉しくなる。土を掘らなくてもいいのは楽ちんだと思った。1200年経ち、凄い世になった。きっとまだ凄いことがあるんだろうな…。
「次はテレビですかね?」
とお部屋にあった黒い大きな姿見?よく解らないけど何でこんなに黒いんだろうと不思議だったものだ。民代さんは
「驚くと思いますから先に説明します」
と言い、
「これはデジタル液晶テレビです。このリモコンを押せば、起動してつきます。
この真ん中のは姿見ではなく画面と呼び、この中に映像が映ります。遠くで仕事している人達ですね。様々な娯楽番組にニュース…。
まぁ、解りませんよね…うーん、私もどうお伝えすればいいか…。とにかくこの中に人が映ることがあります」
とつけて見せて私は
「きゃああ!」
と隣にいた式神優平くんに飛びついた。
*
落ち着くとようやくテレビのことが解ってきた。
驚くことばかりだけど。
画面の中で人が喋ったり動いたりして、更にアニメとか言う、とても綺麗な絵が動いているのも見た。凄い。
「しばらく観ていていいですよ、私は昼食の準備をして来ますね」
「は、はい!」
と私はテレビが楽しくて虜になりつつあった!楽しい音楽も話す声も今の世の人達の服装、笑えること、真剣に世を告げるニュース…とにかく目まぐるしく飽きない!!
感動しているとふと横の式神の優平くんが目に止まる。
そう言えば民代さんが…私の言うことは何でも聞くと言った。
キスしたら本人に伝わるとも。
これはお礼をしないと!私のお礼なんてキスくらいしか…できないから…うーん…。
「式神優平くん…私とキスしてください!」
と言うと彼は私を捉えてキスした。
あ…昨日と同じで素敵とうっとりする。
しかしちょっと苦しくてやめてもらう。
「そうか…!やめろと言うまで続けられるんだ…。んー、じゃあ式神優平くん、私がいいと言うまで息継ぎ時々しながらキスしてください!!」
と言うとその通りに動かれて今度は息継ぎもあるから苦しくなかった。
ようやく満足してやめてもらい、
「頭撫でてください」
と言うとよしよしと撫でられている所でトントンと音がして民代さんがお昼を持ってきてくれた。
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