Little boy & Giant tree🌅🌅🌅🌅🌅🌅



うん、約束だよ そういえばさっきの話のつづきなんだけど



さっきのつづき?



ひさしぶりに雨が降ってくれたから、あした島のみんなでロンゴロンゴ祭りをするみたいなんだ 何かお祝いごとがあるたびに、夜が更けるまで歌って踊ってを楽しむんだけどーーララクはそわそわと視線をさ迷わせています



ーーあしたの夜は、100年に1回の流星群が来るじゃない?



へ、へええ、そうなの 知らなかったな・・・ーーいったい、かれと出会ってから自分が世間知らずと思うのは何度めでしょう



暗紅色に染めわたる地上にいながら、ララクの顔は赤く火照っていることがわかりますーーその、だから・・・良かったらいっしょに見ない?



え・・・?ーーもちろんお誘いは素直にうれしくて、年甲斐もなく胸が踊りました が、それと同時に愕然ともしたのです・・・わたしにとって1秒も100年も等しく瞬きほどの刹那であるというのに、その瞬きの中にかれの人生が収まってしまうことに



あすの流星群は、かれと見ることのできる最初で最後の流星群になってしまうのです



だけど、いまは感傷に浸っている場合じゃありません わたしは喜びだけを素直に引き出して、ほほえみかけました



かれと過ごした時間を、かけがえのない思い出をいつか思い返したとき、うつくしく輝くものにするために・・・もちろんよ、ララク わたしなんかで良かったら、一緒に見ましょう



ほ、ほんとうっ? お祭りの途中でぬけてくるから、待っててね やったあ、すごく楽しみだよ!



わたしも楽しみ ああ、夜は冷えちゃうから、温かくしてきてね



うん! パスクアも風邪引かないようにね それじゃ、またあしたっ 



大きく手を振りながら、伸びていく影をふり払う勢いで駆けていくかれの背中を、わたしはいつまでも見つめていました




それが、わたしとララクの交わした、最後の会話でした



いつも通りの翌朝・・・もう少しで日の光が、島の隅々にあまねく行き届きまして優しく温めてくれるでしょうというときーー



強烈な閃光が、島全域を包み込みましたーーそしてすぐに、耳をつんざく程の衝撃波が轟いたではありませんか




爆弾が、落とされたのです



すべてを引き裂かんとばかりの衝撃に、わたしの足許の根っこが剥がされそうになったのもつかの間、視界を覆う砂埃で息ができなくなりました



たくさんの鳥や虫や動物が吹き飛ばされて、わたしの身体に激しく当たって死んでいきました



かれらは呻き声もあげず・・・いいえ、おそらく何が起こったのかすら分からないまま、理不尽に命を奪われていったのです



唐突にわたしは思い出していましたーー数日まえ、東に800キロメートル離れたところにある大陸で戦争がおこっていたことを、ここに寄り道された貿易風のおじいさんから伺っていましたことを



しかし、だれの眼にも触れない平穏なこの場所が襲われるなんて、まったく考えもしませんでした



・・・わたしの意識は、ゆっくりと遠退いていきましたーー




気づいたときには、ひたすらに亜鉛色の世界がひろがっていました



わたしは生きていたのです


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る