第33話 世界が終わるまでの……

 終末感が漂うこの地球。そこに、未来人を名乗る一団がタイムトリップをしてやって来た。聞けば、五万年も先の未来からの観光旅行だという。

 多くの現代地球人が喜んだ。希望を持った。特に若い世代は「人類の滅亡」が近いと喧伝される世の中にすっかり参っていたので、心が救われたようだった。

 未来人旅行団の団長が各メディアの囲み取材に応じる格好となった。姿形は現代人とさほど変わらない。年齢は45歳とのことだが、やや若く見えるというくらいだ。

 感動的な取材になるであろうと全人類が見守るなか、団長は意外な言葉を口にした。

「この20XX年の地球は、だいぶ文化的にも科学的にも進歩していますね。なんとなく子どもの頃から聞いてはいましたが、驚いています」

 五万年も先の未来人から文化力・科学力を高く評価されるとはどういうことであろう? 何かのジョークだろうか? それとも小馬鹿にされているのだろうか? 現代人は、未来人旅行団団長が言ったことの意味を計りかねていた。

 取材記者の一人が尋ねる。

「とはいえ、あなたたち未来人はタイムトリップという極めて高度な科学力を使ってこの時代にやって来たではありませんか? つまり、現在の20XX年にしては、意外にも科学が進んでいるという感想を持った……という意味でおっしゃっているんですか?」

 団長は即座に首を振った。

「いいえ。私たちが生活する五万年後の時代では到底及ばない文化と科学を持っている、という率直な感想を述べたのです」

 これにはすべての現代人が虚を突かれた。一体どういうわけだ?

「あなたたちにとっての未来人――すなわち我々は、高度な文明を持っておりません」とのたまう団長。

 ますます混乱する現代人。団長は、ただただ無表情のまま言葉を継ぐ。

「我々は、かろうじてあなた方が使う言語を解し、意思のやりとりをすることはできます。それぐらいのものです。他に特筆すべき文化や科学技術などはない。そもそも新しいものを創造する能力がないのですよ。完全に退化しきったホモ・サピエンスの末路、なれの果てと言えましょう。この悲しき我々の姿を皆さんにお見せするのは、それこそ悲しい。タイムトリップというと、あなたたちは想像以上の高度な科学の粋を極めた行為と思うでしょう。正直に言えば、このようなものも我々には原理が分からない。早い話が、『勘』のみでの営為と言えます。我々は『勘』だけで生きる、人類の『最終形態』と言えるのではないかと。ですから、現代人の皆様は、滅び行く人類の姿を目の当たりにしているだけ……ということ。夢も希望もない未来を見せてしまったことについては謝罪します」

 これから先、五万年をかけた人類の歩みは実際こういうことらしかった。

「地球の未来は第六感世界である」という現実に打ちのめされる人々がいる一方で、精神的な究極の理想であるという人々も多くいた。

 そんな日でも太陽は常に輝き、まぶしい。

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