第19話 本物のエコとは
環境問題は全世界の人間が真剣に考えるべき問題ではないかと思われる。とはいえ、様々な考え方・意見があろう。
これから記す挿話は、ある国の最高学府にて、高名なエコロジストの教授と学生との間で行われた議論の一部だ。地球の行く末を憂う読者諸氏の参考になれば幸いである。
――教授は学食の安っぽいハンバーグを頬張りながら話を切り出した。
「本当のエコ。本物のエコロジー。……Truly ecology ってのを知っているかね?」
前途有望で将来は国家有用の人材たらんとする女子学生は答える。
「やはり、排泄物を畑の肥料にすることが真のエコだと思います。いろんな試みが為されていますが、結局は古来からおこなわれている基本に立ち返るべきです。世間で唱えられているいるエコもどきは、甘いし、生ぬるいんじゃないかと」
教授は(この学生もまだまだ未熟だな)といった雰囲気を、あからさまに出して声を上げた。
「一体何を寝ぼけたことを言っているのだ? 甘いのは君だよ!」
「え! それは一体? じゃあ、どんなことが本当のエコなんですか?」
学生は気色ばんで尋ねる。いかに学識豊かな大教授が相手とはいえ、ややプライド高めの彼女は、少しく気分を害した。
普段は鷹揚な雰囲気の教授だが、このときばかりは半ば呆れ、半ば小馬鹿にするような物言いで返した。
「あまりにも単純かつ簡単なことだよ。自分の排泄物は、また自分に戻せ」
どういうことだろうか? にわかに話を飲み込めない女学生に対し、教授は言葉を継ぐ。
「つまりだ。ウンコをしたら、その日その時その場所でそのウンコを自分が食う。……分かったかい?」
これ以上ない自信を持った教授の勢いに気圧されそうな学生は、かなりたじろぐも、さすがに、一流の教授らしからぬ奇説じみたものになんとか反論を試みる。
「一応分かるといえば分かりますけど、まともな人間が簡単にできることではないですよね……」
女子学生の言葉の間隙を縫って教授は、満面の笑みとともに言い放った。
「私は三十年以上にわたって、この『ウンコ食うエコ活動』を続けている。なかなか世間様からの広い理解をもらえないがね」
「(わあ……エンガチョ……)」
女子学生は、汚いものを見るような目で――実際汚いのだが――教授を見た。天下の奇観のごとく思えた。そして食堂を出た。
教授は、まともではないようだった。
エコは無理かもなあ、といった無力感が襲ってきた。いかん、と思ったがなぜか抗えない。
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