第5話 性の源の物語
(原文)
いづれの帝(みかど)のころなりしや、三十歳(みそとし)ほどの妻子(めこ)持ち公儀に詰む男ありき。彼はど助平に変態なりき。同僚の唱ふる「男は三人の女の母乳を飲みてをさをさしくなる」といふ奇説をいと気に入り、行はむとせり。
彼は、おのれの母の乳は赤子のときに飲めり。ここまではまづ並やうなることならむ。
二人目の母乳を飲まざらばならずと考へし彼は、出産せるばかりの妻の乳を飲むことを企てき。いまだ乳離れしたらぬ息子の飲める乳を少し分けさせむといふ、なかなか心うき案。
すゑよりいふと、彼は、妻より「ど助平変態豚をのこ」といふ心の罵り受け、ひとへにしょぼくるる始末となりき。
おそらく、母乳を飲まする殊なる店に行きしところで、そは数のうちに入らじ。
彼は、雨がそぼ降る歌舞伎町に一人佇み「我は一人前の男になれぬままこの世を去なむや」とため息をつきき。
(現代語訳)
どの帝のころだったか、三十歳ほどの妻子持ち会社員がいた。彼はドスケベで変態だった。同僚が唱える「男は三人の女の母乳を飲んで一人前になれる」という奇説を大変気に入り、実行しようとした。
彼は、自分の母親の母乳は赤子のときに飲んでいた。ここまではまず一般的なことだろう。
二人目の母乳を飲まねばならないと考えた彼は、出産したばかりの妻の母乳を飲むことを企てた。まだ乳離れしていない息子が飲んでいる母乳を少し分けてもらおうという、なかなか情けない計画。
結果からいうと、彼は、妻から「ドスケベ変態豚野郎」という意味の罵りを受けて、ひたすらしょぼくれる始末となった。
おそらく、母乳を飲ませてくれる特殊な店に行ったところで、それは数のうちに入らないだろう。
彼は、雨がそぼ降る歌舞伎町で一人佇み「俺は一人前の男になれないままこの世を去るのだろうか」とため息をついた。
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