二 黒づくめの尾行者

 さて、そんなある日のこと……。


「最近、俺の周りを黒づくめの男達がうろついてるんだ。某探偵漫画の悪の組織じゃないぜ? あのUFO事件の揉み消しにやって来るってやつらだ」


 相変わらずの庵野くんが、また変なことを言い出しました。


「きっと俺が世界の真実に近づきすぎたんで監視対象にされたんだよ」


 世界の真実って……陰謀論者や都市伝説好きなら、知ってる人間は星の数ほどいるようなありきたりの情報だと思うんだけど……やっぱり、自分は特別だと思いたい中二病的発想である。


「はいはい。また庵野の病気が始まったよ」


「どうせ暗色系のスーツ着たサラリーマンかなんかだろ?」


 もちろん、相変わらず庵野くんを誰も相手にしようとはしません。やはり、みんなの扱いがオオカミ少年みたいです。


「いや、ほんとなんだって! マジで俺、ヤツらに連れさられるかもしれない……」


「おまえレベルが監視対象なら、『ムー』編集部や都市伝説系配信者なんて全員消されてるよ」


 この時は、わたしもそうでしたし、クラス全員がいつものホラ吹きだと思っていました。


 ところが、それからほどなくしてのこと……。


「……あ、庵野くんだ」


 学校からの帰り道、ふと前方に目を向けてみると、10mほど先を庵野くんらしき男の子が歩いていました。


 まあ、家のある方向は一緒だし、だいたい通学路も同じなので、偶然、時間帯が重なるなんてことも当然あるでしょう。


「……え?」


 ですが、次の瞬間、わたしの目の中に違和感のあるものが飛びこんできました。


 橙色オレンジの夕陽に染められた人気ひとけのない住宅街、等間隔に並べられた電信柱の一本の影に、黒いシルエットの男が二人、ひっそりと隠れるようにして立っていたのです。


 冬でもないのに黒いトレンチコートをびっちりと着込み、パンツも黒で黒いソフト帽をかぶると、真っ黒なサングラスまでしています。


 顔は頬のこけた長身痩せ型タイプで、服装のせいなのかもしれませんが、双子かと思うくらい二人ともよく似ています。


 その男達は微動だにせず、前を行く庵野くんの方をじっと見つめているような感じです。


 わたしは思わず足を止め、しばらくその場に立ち尽くしてしまいましたが、その間にも庵野くんはずんずんと遠ざかってゆき、すると男達も電信柱の影からて、静かにその後を追って歩いてゆきます。


 庵野くんの歩調に合わせ、それ以上近づくことも、また逆に離れることもなく、まるで尾行をしているかのような様子です。


「まさか、庵野くんの言ってたことって……ほんとだったり?」


 わたしは彼が口にしていた〝最近、俺の周りを黒づくめの男達がうろついてる…〟という話を思い出しました。


 彼が真実に近づきすぎたので、UFOの目撃者同様、監視するためにやって来たのだという……。


「……いや、まさかね」


 しかし、冷静に考えてみれば、現実にそんなことあるわけがありません。


 一見、尾行しているようにも見えましたが、きっとタイミングの重り合わせで、ただただ歩いていたあの黒づくめの男二人が、偶然、庵野くんの後を追いかけるような形になっただけのことなのでしょう。


 すでに庵野くんも、その後を行く男二人も、すっかり遠ざかって豆粒のようになってしまっています。


「危うくわたしも陰謀論者になるところだった……」


 フルフルと頭を振って妄想を追い出すと、わたしも再び家に向けて歩き始めました──。


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