第4話「序章編2:冒険者になるためのクソ試練」


ジョセフを連れて無事奴隷島から脱出した尚樹とヴェルザンディはネオガイアの港町・ベンテーンについた。この町は冒険者の町・フロンテイションに隣接している飲食や貿易の仕事が盛んに行われている町である。


ジョセフ「尚樹君、ヴェルザンディさん。この恩は忘れんぞ。困ったことがあったらいつでもワシに相談するんじゃぞ」


ジョセフはベンテーンにある自宅に帰っていった。


本来はこの町について、ジョセフの家を探し、孫娘であるシェリーに形見のペンダントを渡してフロンテイションに行く流れだが、ジョセフが生きているのでそのまま2人で行くことになった。

なお道中ではモンスターのエンカウントはない。


…これがこのゲームの最初の「罠」である。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―フロンテイション―


そこは雑貨屋、出店屋台、宿屋など様々な冒険者向けの施設があり、街の中心には冒険者達の組織的集まりであるギルドを管理する、【ギルドマスターズ】が存在する。


この世界で冒険者になる方法は2つ


1:既存する冒険者ギルドに加入する。

2:個人で冒険者試練を受けてソロ冒険者になる。


この2つがあるが、どっちの一長一短である。


前者はギルドによっては初心者を断ったり、使えないスキルの冒険者はギルド面接で弾かれるから困難だ。


「ねーよかったら私と彼をチームに入れてくれない? これでも女神なのよ?」

「黙れ! 貴様の様なたわごとを抜かす頭のおかしい女などチームに入れられるか!!」


ヴェルザンディは現在冒険者ギルド1位の「ドラゴンファング」のメンバー・カイに話をかけたが駄目だった。



「ヴェルザンディさん。取り合えず冒険者試練を受けましょう。レベルの低いボクらではどこのギルドにも加入できませんよ」

「…うう」


 ヴェルザンディは嫌な表情を浮かべてため息をつく。


「ヴェルザンディさんはともかく私は【吟遊詩人】であるためステータスが低いですし」


尚樹は真剣な表情で告げる。


「冒険者試練の『モンスターを100種類討伐せよ』。この試練の内容は今の私達ではクリアできません…」



この試練内容がプレイヤーを一気に萎えさせる要因になっていた。

モンスターを100匹ではなく、『100種類』という点である。100匹ならスライムやゴブリン、ワーウルフなどの下級モンスターを適当に何10体か倒せばいいが、この試練はモンスターを100種類なので、全然違うモンスターを1種類ずつ100体倒さないといけないのだ。

しかもその中には物理攻撃でしか倒せないモンスターもいるので困難を極める。


更にこの試練の難易度を上げる要因として、主人公プレイヤーは【吟遊詩人】にしかされない設定である。吟遊詩人は魔法攻撃こそそこそこあるが、物理攻撃がかなり低い。ヴェルザンディもバランス型であまり物理攻撃が得意ではないため100種類の討伐は難しい。


ここで多くのプレイヤーこう思うだろう。

『ならRPGらしくレベルを上げて攻略すればいいんじゃないか』と


だが、この【ドラグーン・ブレイド】ではそのような攻略は出来ないのだ。なぜならこのゲームは敵を倒してもレベルが上がらず、敵がエンカウントしないからだ。


本来RPGゲームは敵キャラクターを倒して経験値・お金などを取得できるが、この【ドラグーン・ブレイド】では敵を倒しても経験値を得られないのだ。

【ドラグーン・ブレイド】では冒険者になった後、〈ギルドマスターズ〉から依頼の報酬の金を貰い、〈冒険鑑定屋〉という施設で鑑定士に料金を払い経験値を貰う仕組みになっている。

 厳密にいうと後からレベルを上げるシステムなのだ。この回りくどいシステムはプレイヤーからは『パチンコの換金システム』と呼ばれていた。


また、敵エンカウントは冒険者として登録された後、受注したクエスト内でしか出現せず、移動中の森やダンジョンでのエンカウントは一切ないのである。このため必要なレベルを上げるためにギルドに来るモンスター討伐依頼や、お使いの様なクエスト依頼を受けないといけないという面倒な作業をしないといけないので、このゲームをやった多くのプレイヤーはレベル上げのストレスにより心を折ってしまうのだった。



この仕様については開発会社である『ゴールドキャッスル』によると

「従来のRPGにない計画的な戦闘、よりリアルな緊迫感を出すべくそのような使用にしました。単純な戦闘でない分プレイヤーは攻略のためにより戦術的な思考を取らざるを得ないでしょう。要するによりリアリティーのある冒険を楽しめるのです!」

 とコメントしていた。


だがこのゲームをプレイしたとある動画投稿者は、

「RPGの醍醐味であるレベル上げの快感がないのは苦痛。職業選択もないのはあまりにも不便すぎる。冒険というよりアルバイトをしているような疲労感があり、嫌な意味でリアルがあるシステムである。ゲームは非日常を楽しむエンタメなのでそもそもリアリティーを追求する意味がないし、追求する所を間違っている」

 と辛辣なコメントを残していた。


レベル上げができなけば敵を倒せないし、敵を倒せなければ試練はクリアできない。かといって冒険者にならなければ敵キャラのエンカウントもできないので、八方塞がりになってしまう。

この仕様を知らなかった多くのプレイヤーはさっさと攻略しようと冒険者試練に進み、クリアできずにゲームをやめてしまった。


一応説明書にはこのゲームのレベル上げについてのシステムは書かれているが、それを知らなかったため、冒険者にすらなれずに多くのプレイヤーは挫折してしまったのだ。



しかし、このゲームではそれを打破するための救済策があった。


「仲間をスカウトしましょう。それ以外クリア方法がありません」

「やだああああああー!!」


ヴェルザンディは泣き叫んだ。

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