第5話「序章編:3 最強の農民・クサゾウ!」


冒険者になるために『モンスターを100種類討伐する』試練をクリアしなければならない。だが、そのためには強化が必要だ。

だがこのゲームは仕様で序盤はレべル上げが出来ない。


だがこのゲームは自分を強くする以外の方法がある。


それは『仲間のスカウト』である。


このゲームではギルド内の冒険者、道中のキャラクター、敵モンスターといった様々な仲間をチームに入れてギルドを作ることが出来る。


序盤では村人を仲間にできるが、クリアに最適なのが農家の長男・クサゾウである。

主人公がレベル1,ヴェルザンディがレベル2に対して、クサゾウはレベル4で物理攻撃に特化したキャラである。



「いや~にしても強敵だったっきゃ~」

「クサゾウさん、ご協力ありがとうございます! 前衛の戦士が風邪で来れなくなったもので…」

「いいですけえ! 報酬さえもらえれば協力するダス~!」


他のギルドの冒険者からお金を受け取り、倒して生きたドラゴン系のモンスターの肉体を買い取りように解体していくクサゾウ。

農民ながらにその腕前は見事であった。


更に序盤は持ち金がないが、クサゾウは試練後の報酬を山分けすることで交渉成立になりパーティに入れられるスカウトが容易なキャラなのでクリア重視のプレイヤーから重宝されるキャラクターだった。

 尚樹も序盤がどうしても進められなかったので、攻略で知ってスカウトしたことがある。

だが、このキャラは同時にヴェルザンディにとって因縁のあるキャラである。

 クサゾウの存在がヴェルザンディに『クソ雑魚女神』のレッテルを張らせ、ステータス・コスパの良さからみても明らかにクサゾウの方が上の為、ヴェルザンディが完全にお荷物キャラとなってしまったのだ。しかもクサゾウは強化次第でラスボスとも戦えるので、クソゲー専門のゲームプレイヤーや高速のゲームクリアを目指すRTA(リアルタイムアタック)走者からは『最強の農民』と言われているキャラである。



「尚樹…!私は絶対に嫌だ!!」

「ヴェルザンディさん…」

「試練をクリアしないと先に進めないのはわかるけど、それでも嫌なの…!」


ヴェルザンディは嫌悪感を示し泣きながら懇願する。先に進みたいが、そのための手段がどうしても受け入れられない。


「あなたも私よりアイツの方が良いっていうの!?」

「そういうわけでは…!」

「もう尚樹なんて知らない! うわああああん!!」


ヴェルザンディは泣きながら尚樹の元から去っていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


尚樹は1人歩いて考えていた。クサゾウをスカウトすれば試練を1番楽にクリアできるがヴェルザンディを傷つける選択肢になってしまったことに。


(一応、この試練をクリアする方法ならあるけど…)


だがクサゾウをスカウトする以外の方法がある。それは冒険者をスカウトする方法だ。

先の奴隷島でジョセフから形見のペンダントを受け取るが、それはフロンテイションの闇市エリアで冒険者以外でも利用できる買取屋があり、そこで3.000Gに換金できる。

その金で強豪冒険者のカイを雇う方法だが、ジョセフを助けたことでペンダントはないし、ゲームならともかく今は現実の出来事として起こっている。人道に反した行動はあまり気が進まなかった。


序盤に雇える冒険者はドラゴンナイトのカイ、斧戦士のジョー、黒魔術師のユウの3人である。

ちなみに雇える相場は


〈ドラゴンナイトのカイ〉3.000G 冒険者レベル8


〈斧戦士のジョー〉1.700G 冒険者レベル5


〈黒魔術師のユウ〉2.500G 冒険者レベル7


である。


お金に歯止めを掛けなければカイ一択だが、今後の金策を考えるプレイヤーはジョーを選ぶ。ジョーはこの作品の良心ともいえる存在で雇用したプレイヤーがレベル10以下だと回復アイテムを譲ってくれたりするキャラクターなのだ。


(とにかく先ずはヴェルザンディさんを連れ戻さないと!)


尚樹はヴェルザンディを探すことにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――― 


女神族で3姉妹として生まれ、落ちこぼれとして周りから疎まれてきた。


「真の女神となるために下界の人間と共に魔王を討伐しなさい」


母にそう言われ冒険者と共にこの世界を歩いたが、多くの冒険者(ゲームのプレイヤー)はヴェルザンディを邪魔者扱いし、離脱時には全ての装備をはぎ取られ、それをプレイヤーがゲームをプレイする度に繰り返されることが多かった。


尚樹にその気がないのがわかっていても。私はどうしても過去、多くのプレイヤーから受けたトラウマが頭をよぎる。


(何しているのよ私。尚樹にそんな気はないのに、プライドばかり優先して! むしろ私をラスボス戦まで使ってくれた彼に、あんな態度をとるなんて!)


今更ながら、尚樹にとって態度を反省した。


「はやく尚樹の所に戻らないと…!」


ヴェルザンディは尚樹の元に向かった。

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