第2話「ヴェルザンディの怒りと尚樹の過去」


―信仰。


それは存在しない存在に実態を与えうるちからである。「神」という言葉は物質としての存在はないが、人の心の中にいる。

多くの神話に出てくる神々も架空の存在だが、信じる人間の心の中にいるのだ。


特に日本にはつくも神のように道具も神になりうる言い伝えがある。


在庫の山に眠っていた【ドラグーン・ブレイド】のソフトも月日の中で魂が宿り、そしてクソゲーとして人々からカルト的に好かれたことが信仰となり、ドラグーン・ブレイドのNPCキャラである女神・ヴェルザンディも意思を持ち始め、このゲームを手にした人間の声が聞こえるようになった。

 だが、このゲームに対する言葉は散々だった。


『買う価値のないクソゲー』

『プレイヤーを馬鹿にしている』

『買って損した』

『ていうかこのヴェルザンディとかいう名ばかり女神雑魚過ぎていらねwww』


このゲームを手に取ったプレイヤーは罵倒を口にし、ソフトを押し入れにしまい込むか、最悪、破壊してこのゲームをごみに捨てた。


また、ヴェルザンディはこのゲームで最初に仲間になるNPCだが、性能ははっきり言ってイマイチであり、育てれば戦力になるが、その頃には強力なNPCも仲間にできるのでヴェルザンディはお荷物キャラであり、このゲームを知るプレイヤーからは【クソ雑魚女神】として知られていた。


(何よ…。私だって好きでこうなったわけじゃないのに…っ!!)


ヴェルザンディは女神族の中で落ちこぼれであり、神のとして修業をするために地上に降りて主人公と一緒に冒険をするキャラである。

その設定も繁栄されてなのかステータスが低めでレベルが上がるのが遅い大器晩成キャラある。

だが、ゲームを極めたゲーマー達にとってはむしろ邪魔であり『ヴェルザンディを使うくらいなら農夫のおっさんをパーティーに加えたほうがまだ役に立つwww』と罵られた。


人々の罵倒・嘲笑が彼女の心に闇を作り、やがてこのゲームを馬鹿にする人間を恨むようになっていった。


(許さない…許さない…! 勝手に私を作った癖に…! 何で私は否定されなきゃいけないの…!!?)


ヴェルザンディは心の中で誓った。次にこのゲームをプレイした人間を呪ってやると。


そしてこのゲームを久しぶりにプレイした人間が尚希であり、ヴェルザンディの恨みの呪いで尚希は事故で死に、この世界に来てしまった。


「どうせこの人間もこのゲームを馬鹿にしているはず。記憶を消してこの世界の住人にしてやるわ…!」


ヴェルザンディは尚希の頭に手をやる。その瞬間、彼の記憶が開いた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


佐藤尚樹。

彼は公務員の父親と歯科助手の母親の間に生まれ、幼いころから厳しい英才教育を受けていた。


学習塾・英語教室・剣道を習わせられ、ゲームや漫画の類は一切触れる事を禁止され、テレビは1日1時間だけ許されており、友達と遊ぶことも禁じられていた。


「世の中勉強ができる奴だけが出世できるんだ。お前も俺と同じくらい偉くなれ」

「あなたは一流大学に行って一流の人間になるのよ。アニメや漫画を見てる人間はロクな人生を歩まないのよ」


親にいつも監視され、それに応えるために彼は素直に従い生きてきた。


そんなある日、インフルエンザの流行で学習塾が緊急で休みになった日。同級生グループに声をかけられてゲームショップに初めて立ち寄った。


「息抜きはやっぱゲームだよな」

「格ゲーのテストプレイが出来るぜ!」


彼らがゲームをしている間、店の中を見ていた。初めて見るソフト、ゲームの機体。秘密基地の様な特殊な空間に尚希は初めて心が躍った。


「これは…」


手の届くところにあったセール品のソフトの1つ【ドラグーン・ブレイド】に目をやる。ソフトはNPCキャラのヴェルザンディをメインに置いたパッケージであった。


「このゲーム100円で買えるの!?」


月のお小遣いが500円の尚希にとっては夢の様な価格だった。


「ああ、そこの中古ソフトは人気が無くてねえ…。あまりお勧めはしないよ」


店主らしき初老の男は尚希に一応説明はした。


「おじさん…。いつかこのゲームを遊びたいから…! 買います!」


ソフトは買えるが遊ぶための機体は買えない。だがいつか大人になり時間と金がある時にこのソフトで遊びたいため、そしてこのヴェルザンディに会うために今は勉強を頑張ろうと決めた。


挫けそうなときはこのソフトのヴェルザンディを見て心を癒した。


そして大学生になり機体を買う事でやっとプレイが出来た。

実家から離れての1人暮らしだった。両親は志望校に進学できなかった尚樹に無関心になり、優秀な弟の縁勝の方を相手にし始めたので尚樹は自由になった。尚樹はとくにやりたいこともない状態だった。



初めてのゲームに戸惑ったが、ヴェルザンディ、そして自分が作ったキャラやスカウトした仲間と冒険できるシステムに感動し、クリアした時は今まで以上の達成感があった。

 癖のあるストーリーには苦戦したが、それでも初めてやったゲームはとても面白かった。


大学のサークルの先輩からは


「お前こんなクソゲーやってんのかよ」


と好きなゲームの悪口を言われ口論になりそのサークルにはもう行ってない。

だけどボクはそれでよかった。【ドラグーン・ブレイド】はオレにとって大切なゲームだから。誰からも否定されようと、オレが好きならそれでいいから…。


不景気な世の中になり、深夜バイトで食いつなぐうだつの上がらない毎日でも。このゲームを時間がある時にやるのが生きがいだった。

ゲーム業界も進歩し、新しいゲームが出てくるが。結局【ドラグーン・ブレイド】に戻ってしまうほどこのゲームが好きだった。


次の休みになったらまたこのゲームを遊ぼう。

そう考えながら仕事に帰っていた途中で交通事故に逢い死んでしまった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「ああ…! 私はなんてことを…!!」


ヴェルザンディは後悔した。

このゲームを好きだと言ってくれた人間を呪い、命を奪ってしまったことに。


ただ他のゲームのように『楽しかった』と言われたかった。

愛されたかった。


そう思ってくれた人の命を私は奪ってしまった


現世にいきていた尚希は死亡したが、魂はまだ存在している。

許されることではないかもしれないが、せめてこの世界で生きてくれたらと思い、彼女は女神の力を使い、尚樹をこの世界に転生させた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「尚樹さん、私があなたにしたことは決して許されることではないです。取り返しのつかないことを…」

「うーん」


尚樹はしばらく考えてヴェルザンディに話す。


「女神様、ボクはあなたを怒ってはいない。死んだことは悲しいけど、ボクは正直何のために生きているのかわからなかった。テストで100点が取れなくて98点しか取れなかったし、剣道大会もいつもベスト8で終わって好成績が取れなかったし、進学も失敗して、就活も上手くいかなくて…。でも、このゲームだけが生きがいだった。このゲームで遊んでいる時だけは嫌な事を忘れられた…」

「…」

「だから、こんなボクがこの世界に来れたのは奇跡だと思うし、女神様と一緒に居れるのはご褒美だと思ってるよ」

「…ッ!」

「その、画面越しでしか今まで会えなかったけど…。これからよろしくお願いします!」

「…ありがとうございます…!」


ヴェルザンディと尚樹は握手を交わした。


▶ニューコンティニューしますか? 〇ハイ!


「え、なんですかこれ?」


突然あらわれたゲームのコンティニュー画面に尚希は困惑したが、自動的にOKをされた。


「あの…、ごめんなさい! クリア後の世界にするつもりだったんだけど、コンティニュー状態の世界になるように設定しちゃったの~!!」

「ドジは健在なんですね…」


コンティニュー画面が閉じて、光の渦に包まれ尚希とヴェルザンディは【ドラグーン・ブレイド】の世界を最初から始めることになった。


尚樹の【ドラグーン・ブレイド】世界での生活が始まった。

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