第5話 これだから彼女の隣は面白い
後日談のようなもの。
私たちがコーヒー談義をした翌日の話をしようと思う。
藤原さんといつもの場所で昼ご飯を食べていると私はとあることに気が付いた。彼女がいつも持参する例のコーヒーを入れた水筒が見当たらないのだ。
「藤原さん、水筒もってきてないみたいだけどもしかして昨日のを受けてコーヒー研究中とか?」
言ってしまってからはたと気が付く。藤原さんなら自分の好みではないコーヒーなら持ってくることはないと思っての発言だったが藤原さんはそんな人間だろうか、よくよく考えてみれば失敗してしまったのなら藤原さんは素直に淹れなおす人間ではないだろうか。
「あー、それなのだけれど、昨日あれが解決してしまった後からコーヒーへの興味が失せてしまったのよね」
藤原さんはなんでもない様子で言うと、サンドウィッチに口をつける。
私としては少しだけさびしいという感情だった。私の中で藤原さんを形成する要素としてコーヒーというのは大きなウェイトを占めていたのかもしれない。それに自分もコーヒーというものに興味が出てきたというのもあって肩透かしを食らった気分でもあった。
そんな少なくない落胆を抱えながら自分の昼ご飯を済ませようとして、ふと目についたものがあった。藤原さんの耳に光る黒い何か、よく見るとそれはピアスであった。
それを見つけてから私はハッとした。
「藤原さん、そのピアスって今までつけてたっけ?」
「ああこれ? 昨日の帰り百円ショップで目についたから買ってみたのよ」
今まで藤原さんはピアスなんてつけていなかったはずだ、相変わらずすごい行動力だと感心するところではあるけれど、私が気になったのはそのピアスの色だ。
恐らく彼女が魅せられていたのはコーヒーそのものになのではなかったのだ。今更こんなことに気が付くなんて私もどうかしていた。こんなに近くでずっといたのに気が付いていなかったなんて。
思い返せばそれはどこにでも伏線はあったのだ。
薄暗い北校舎の連絡通路付近の階段下の雰囲気、昨日行ったカフェを含めての全体的なカフェへの薄暗いという印象、藤原さんが好きな苦みの強いコーヒーの色。そして彼女が今日新たに身に着けていたピアス。
その事実に気が付いて思わず笑ってしまう。これを聞いたら藤原さんは納得するだろうか、いやどうだろうかこれは私の胸の内に秘めていなければいけないことだろう。
彼女は姫だ。そしてその姫様はいたく『黒色』に執心なのだ。
その姿はまるで好きな色を集める子供じみたしぐさで……これに彼女は気が付いていないという。しかもそれがクラスで煙たがれ近寄りがたい存在とされている人間がであるという点、誰がこれを笑わずにいられるだろうか。
「桜さん、急に笑い出すのやめてもらえるかした。普通に怖いわよ」
「ごめんごめんこっちの話。関係ない話なんだけど藤原さんって黒色が好きだよね」
「ええそうね、好んで選ぶ色といえば黒色が多いと思うわ」
藤原琴という人間は、クラス中の人間に嫌煙されるほどに自己主義的で、それを擁護できないほどにひねくれで。かと思えば王道が好きで、意外と素直なところもある。
そして何より、彼女は自分の生活に黒をちりばめるのが大好きなのだ。
それは物語に登場する嫌味なお姫様が自分の好きなものを部屋に集めている姿を想起させる。
結局これは私の想像に過ぎない、コーヒーが好きな理由だって性格に合っていたというのは確かに含まれているんだと思う、それに今まで黒色という要素があったのは偶然かもしれない。けれど、そんなのはどうだっていい。
これは一種の別解で私の中で完結すればいい話なのだ。
私がなぜこんな姫様を好んでしまったのか、その答えがここにあるだけという話だったのだから。
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藤原琴は思索する モコモコcafe @mokomoko_cafe
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