第4話 コーヒーとは藤原琴のことを表しているのだろう
「まず初めに私の好きなコーヒーの特徴は酸味が抑えめで苦みの強いコーヒーで、今飲んでいるマンデリンという種類の豆はまさに私好みの豆ね。そして淹れ方は一般的なドリッパーで抽出する方式で飲んでいるわ。すべてのやり方を試したわけではないからこれが一番好みに合うとは言えないかもしれないけれど現状ではこの飲み方が私は一番好きよ。それで、重要なのはこれを聞いてどう思ったか、桜さんどう思う?」
「どう思うと言われても」
「一般論でいいのよ、桜さん敵にこれらの要素を含むコーヒーを好んで飲む人がどういう人なのかあなたの今までのデータをもとに教えてほしいの」
「じゃあ、語弊を恐れずいうのならひねくれもだけれど、根は王道が好み。少し冒険はするけれどそこまでの邪道はいかない最終的には一見普遍的なものに落ち着くってところかな」
藤原さんは私の回答に眉間にしわを寄せていた。
「あなた相変わらず人間の観察能力に関しては末恐ろしいわね。まるで今までの私の経歴を知っているかのようよ」
「左様で……」
人間に興味のない姫様からすると違うだろうけれど、私からすれば約半年も近くに入れば経歴を知っていなくともおおよそは予測できる。
だから素直に喜べない。ある意味馬鹿にされているのだろうかと勘繰ってしまいそうだ。
とはいえ藤原さんがそんなことをするわけはない、彼女が馬鹿にするとしてもそれは真正面からだ。
「そうね、大方あなたの予想は当たっているわね。あなたに言われて気が付いたこともいくつかあるもの。自分がひねくれているという自覚はあったのだけれど言われてみると王道が結構好みなのよね」
この王道という部分に関しては私も少し意外に思った部分ではあった。藤原さんの性格から見るならば王道というのはあまり結びつかないように思える、けれどひねくれに隠れているだけで特段乖離しているというわけでもない。ここが彼女の性格の面白いところではある。
「じゃあ整理すると『ひねくれ』『根は王道派』『冒険家』『ギャップ性がある』。私から少し付け足すなら『自己意思が強い』『素直』『自分が好き』ってところかな」
「こう見ると私って相当に自信にあふれた人間なのね」
「ノーコメントで」
今更かよと突っ込みたくなるところだけれど今は突っ込むべきではない、話がとん挫する気がする。
「でもやっぱり私にとってコーヒーというのはつくづくお似合いなのだと実感するわね」
「というと?」
「コーヒーの特徴にぴったり性格が合うじゃない」
特徴……ああ、そういう事か。今まで私がコーヒーを飲む人々について観察してきたわけだけど、ここがつながるのか。でもこれはある意味では私以上に本質に迫って悪口を言っているとしか思えない。
「つまり藤原さんはコーヒーを飲む人間は全員自分のことが好きな人って言いたいってこと?」
「ナルシストとまでは言わないわよ一応」
いやそれ言っちゃってるし。
すみませんコーヒー好きの皆さん、すみません藤原さんの後ろの席の人。目が怖いのでいったん刃を下げてください。彼女はこういう人なんです。
私の不安はつゆ知らず藤原さんは言葉を続ける。
「とりあえずここで言いたいのは私のひねくれた性格はコーヒーというナルシズムな飲み物と途轍もなく合っているのではないかという事ね」
「そういうことになるね。じゃあもうここで結論ずけちゃってもいい?」
「まあいいと思うわよ、私自身が人間の考察についてはあまり長けていないから後々ほころびが出るかもしれないけれど今回のところはここまでにしましょう」
「藤原琴、私がコーヒーに魅了される理由は性格にコーヒーがあっているから。こんな所かしら」
そう藤原さんは結論付けると話題から興味が失せたようにケーキを食べ始める。相変わらず淡白だなと思いながら、私も自分のケーキに手を付ける。
うん、ケーキは私にもわかる、確かにおいしいと言える味だった。もしかしたらコーヒーの魅力にはこうした甘味が重要だったりするのかもしれない。これは世のカフェにこぞって人が集まるのも納得かもしれない。
今日は相変わらずのさんざんな日だったけれど、こうやって自分の知らないことを知れるのは藤原さんといてメリットになる点かもしれない。私はそんなことを思いながら今日一日を終えたのだった。
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