コーヒーについて思索する
第2話 始まりの一杯はコーヒーで
「ねえ、桜さん。コーヒーってなぜこんなにも私を魅了しているのだと思う?」
昼休み、北校舎の連絡通路付近の階段下で昼ご飯を食べているところ、隣で同じく昼ご飯を食べていた藤原さんがふと声をかけてきた。
ちなみに彼女の手にあるサンドイッチは一口食べられたまま放置されていた。
今まで考え事をしていたのはコーヒーについてだったらしい。
少し話は変わるけれど、なぜ私たちが二人仲良く並んで昼食を取っているのかと聞かれると正直自分でもよくわからない。確か藤原さんが突然話しかけてきてから成り行きで毎日こうなっている。
ただ席が隣で時々話すだけの関係だけれど仲いい友人たちがするようなことをしているのははたから見ておかしな自覚はある。けれど何か不具合があるわけでもないので示し合わせるように待ち日ここへ足を運んでいる。
「食べてないなと思ってたけどそれについて考えてたの?」
「ええ、少し気になって」
ああ、まずい。彼女の少し気になっては少しどころではない、かなり気になっていると言い換えても問題がない。そしてこの言葉を発した時はまず間違いなく彼女の思索が始まってしまう。
「私、毎日学校に自分で淹れたコーヒーを持ってくるぐらいにはコーヒーが好きなの。けれどなぜこんなにも好きなのかがわからないのよ」
「左様で……」
「桜さんはどう思う?」
振られた話題。
正直これには返したくない。まず間違いなく私の答えが合っていることなどなく、ここで会話のキャッチボールが終わることはない。一歩間違えれば一週間拘束コースだ。
しかし、私はここでの無難な回答を知っている、それは正論。返しにくい当たり前の回答を言えば、基本的に体裁ではあっているように見える。故にここでとるべき択は一つしかない。
「カフェインには中毒性があるっていうし、そのせいじゃない?」
最適解はこれで間違いないと思う、けどそれが正解とは限らない。
そもそもこの問題に私が拘束を回避できるような正解があるのかすらわからないのだ。
祈るように藤原さんを見るとコーヒーの入った水筒をながめながら思考にふけるようにあごに指を添えていた。
「それは違うと思うわね、コーヒーに対してこれといった執着自体はないもの」
正論は今回正解ではなかったらしい。
……あきらめるしかない、一度踏み入れてしまったら最後、彼女の思索は彼女の中での正解を得るまで終わらない。つまり私がこの先することはいかに彼女の思索に答えを見つけさせるかという事だ。
もっと言えば私にできることは何もない。彼女の思索の答えを見つけるなんて意図してやることなど藤原さんにだってできない。
「私はねコーヒー自体に魅力を感じているのは確かだけれど今ここで言っている魅了というのはもう少し深い意味でよ」
「深い意味?」
「そう、深い意味。自分のどの部分と何がどのようにかみ合って魅了されてるのかそれが知りたい。なんだかわけもわからないのに好きでいるのって少し嫌じゃない。こっちが好きになってあげているはずなのにコーヒーに好きにさせられたみたいな、そんな嫌な感じがするのよ」
相変わらずこの姫様の考えはぶっ飛びすぎててよく理解ができない。普通ものに対してこんな感情は抱かないだろう。
しかし、それもある意味では彼女の魅力だと私は思う。
「そういうわけだから今日の帰り、寄り道するわよ」
「それって私も行く感じ?」
「ええ、当たり前じゃない。桜さんコーヒーなんてめったに飲まないでしょう? ならまずは実物を飲んでみなければ考察のしようもないじゃない」
「でも今回のは別に藤原さんだけでもいんじゃないの? わざわざ私が行かなくても」
「何言ってるのよ集合知はそれなりに有用よ。それに私自身、客観的に自分を見れているとは思わないし、それにただでさえ自分がほかの人とずれている自覚くらいあるわよ。だから一般的な目線で言えば普通という枠に入っているあなたを連れまわしているんじゃない」
相変わらず悪意無く人をけなせる人だなと思いつつ私はそれに了承する。
なぜかはわからないけれど、私はこの姫様のいう事には絶対服従とまではいかなくとも、それなりに願いをかなえてあげたいと思ってしまうのだ。
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