遅くなっていく君に送りたい言葉
汐風 咲
「遅くなっていく君に送りたいこの言葉」
–––完璧–––
私はこの言葉が嫌いだ。完璧というものを体現する人間はこの世に存在しないと私は考える。人間に失敗は必ず付きまとうもの失敗しない人間などこの世には・・・
––––––長々と喋りすぎた。環が顔を顰めて聞いている。「いや、もう坊さんかよ」
と呆れたようにツッコむ。私、仲田歩と環は幼馴染で幼・小・中と一緒で高校は違うもののこうして朝までゲームや雑談をするような仲だ。そんな私は環のことが密かに好きになっていた。でもゲームしている時の私たちは距離が近すぎてもう私のことを女の子だと感じてないようなそぶりでいるので少しムッとする時がある。
中学校の頃まで環と一緒だったのでよくわかる。あいつは、そこそこ親しい子でも、もちろんあまり親しくないことにも、少しリスペクトを持った言い方で異性と話す癖があった。でも、クラスの男子や私みたいにとても親密な仲になると、素の自分で話している。「私だって女の子じゃん…」ボソリと呟く。ハッとした。まずい電話の向こうには環が…「何か言った?」と無愛想に環が私に聞き返す。よかった聞こえてなかったようだ。「何にもないよ」と流れるように返し、ホッと安堵した。環は私のことどう思ってるんだろうなぁ。そんなことを考えながらあっという間に時間が経ち、環との電話は終わった。彼は完璧を体現するには少し外れているけど、私は環のことを完璧に近い人だと思っている。彼の運動する姿はまさにスポーツ選手みたいだ。うちの学校は「超」が付くほどの田舎の中学校で全校生徒は50人もいないような学校だ。だから、名前だったりその人の人物像は学校中にとても浸透しやすかった。環の周りはいつも明るく、暗い顔なんてみたこともなかった。でもそんなな彼でもポンコツなところもあるし、裁縫が極端に苦手でいつも私に頼ってくれた。欠点はたくさんあるけれど、それでも彼のことを完璧という以外言葉は見つからなかった。
もう十年以上も環と一緒にいるけど、もっと環のことを知りたいなぁ。そんな想いを馳せて今日も日が昇ってきている。
「ふわぁ、眠た」大きなあくびを噛み締めながら時計を見る。長針は五時を指していた。「六時間もか…」歩とゲームをして朝になってしまった。歩とゲームをすることは、毎週の日課のようで、とても楽しみにしている。お互い飽き性なところが似ていて、話の馬もあう。性格などが似ているからここまで電話や、この日課と呼べるものが続くのだろう。そんなことを考えながら見る外の景色は、少しずつ青色に染まっていった。それを横目に俺はいつの間にか眠っていた…
–––そういや歩が言いかけた言葉はなんだったんだろな–––
第一章「いつもの日常」
–––朝–––
また一週間が始まる。月曜日の朝という重い空気と共に学校に着く。今日はテストがあるのだ。それと言って難しいテストでもあるまいし、そもそもうちの高校は勉強に超特化したところでもないので、授業を聞いていれば案外簡単だったりする。でもやっぱりテストと聞くと憂鬱な気分になる。中学の時は色々環に教えてもらったこともあったけど、結局は何一つ覚えていないのが現状だ。はっきり言って中学の知識はほぼない。多分あの頃の私は、無意識に環と居たかったのだろう。
私が環のことが好きと気づいたのは中学校の終わりくらいだろうか、進路もやんわりと決まり一緒の学校には通えないと知って少し鬱のようになっていた頃もあった。環の好きなところは、優しいところと気遣い・気配りが多いところ、よく彼の口癖として、「責任は俺が取るから」とか、「楽しんでやろーぜ」とか、自分のことより他人のことを優先してるところとか、ポジティブな言葉が多くてとにかく居心地が良かった。よく体育後の更衣室でクラスの男子や先生のことを愚痴っているところを耳にするのだが、環のことに愚痴をこぼしている人は私の知る限りいなかったと思う。妬ましいことにあいつは後輩からも同級生からも信頼されてたり、モテてた。そんなことはあいつは気づいてないけど、気づいている身からするとやっぱりヤキモチを妬いてしまう。それほど環は非の打ちどころのない少年だった。
–––––さて、そんな小話は置いておいて、次の時間はテストだ。自信はないけどいい得点が取れるように天に願い始まりのチャイムがなった。
「おーい!たーまーきー!弁当食おうぜ!」友達の匠が大きい声で言う。「はいはい…」しょうがないと言わんばかりの声で呟き返す。幼・小・中・高の付き合いで幼馴染。一緒にいて俺らは喧嘩とか不穏な仲になったことがないほど俺らの仲は良好である。もちろん歩とも仲が良く、二人だけでなく三人で遊んだことは数えきれないほどある。ただ、一つだけ問題があるとすると…「そーいやお前数学のテスト何点だったんだよ。俺は90点だったぜ」「俺は70点。はいはい…負けました負けました〜」匠は頭が良すぎる。その上大体俺に点数で勝ってるものだけは、勝負しにきやがる。俺だってね⁉︎これでも頑張ってるよ⁉︎別に頭のいい奴がいても気に食わんなんてことないけど、こいつの頭の良さをウザいほどに自慢する姿はいつ見てもすごい腹立たしい。まぁどうせ次の歴史では俺のほうが高いから、その時に煽り返すとしよう。「こんなふうに煽り合いばっかしてるから、歩にも俺らが幼く見えるって言われんだよ」「それは嫌だわ」おい、こいつ即答で辛辣な言葉を投げかけるんじゃねぇ。「俺は、そう言われて嫌な気持ちにはならんのだがなぁ」「はぁぁぁ」と大きなため息をつかれた。まぁそんな奴でも10何年も居てるんだから、多分本心では思ってないんだろうな…。うん。かわいい。「それで、お前はなんで俺のだし巻き卵に手が伸びてんだ?」そう言うと、匠の手がビクッと止まった。「やべっばれたか。環はいつも真剣に考える時、目を瞑るから今回はいけると思ったんだがなぁ」「そうだよな、だし巻き卵美味いよな、でもな盗み食いするくらいなら最初から言えよ。」と言いながら匠の弁当箱にだし巻きを一つ突っ込む。「はい。テストよく頑張りました。」棒読みで俺がそういうと匠は目を輝かせて「マジで⁉︎サンキュー環!」やっぱり無邪気に応える匠はいつまでも子供なんだなぁとか思っていると、時間はあっという間に過ぎ、昼食が終わった。
––––––––––下校–––––
「それじゃ俺は部活行ってくるから、また明日な環!」「おう。怪我だけはするんじゃねーぞ。」「わかったってお前はいつも心配性すぎるんだよっ!」「心配性で悪かったですねぇ。そんじゃぁな〜」
ふう。やっと学校が終わった。一つ大きな、ため息をついて俺は、誰にも気づかれないように病院に向かった。
––––––––––絶対に気づかれちゃいけない––––––––––
第二章「不穏な日々」
ピコン!と甲高い電信音が私の部屋にこだました。おそらく環か匠からのゲームの誘いだろうな。ちょうど明日は部活がなく、確か匠もなかったはずだ、環に関しては部活にすら入ってない。小学・中学ではスポーツはいつも匠と争っていたはずなのに、「帰る時刻が遅くなるからぁ」とか意味不明な言い訳で入るのを拒んでいる。メールを開くと環からのゲームの誘いだった。やっぱりなと思って、今のうちに身支度をしておいてゲームの準備をしよう。
–––––––––––身支度が終わってスマホに電源をつけるとロック画面に大量の通知が溜まっていた。急いでメールを開くと、匠がどうやら風邪で休むとの連絡があり、環は三人全員でしたいゲームだったそうで今日のゲームはおじゃんになった。環は、学校にいたときはなんともなかったのに急に発熱してずっと、匠にやいやい言っていた。私もせっかくゲームの準備してたのに無くなってしまったので、少し匠に苛立ちを感じながらも環と話せない喪失感を覚えて今日は早く寝ることにしよう。
––––––––––ゴホッゴホ––––
まじで最悪だ。なんでこんな普通の休日に風邪なんてひかなきゃいけねぇんだよ。「昨日俺変なもん食ったか?」母さんからは病院に行ってこい。とただ無愛想な一言だけが告げられた。「なんで病人が動かにゃならんねん」とボソッと独り言を吐いて、軽い身支度をして病院に向かった。病院まではバスを使って大体10分くらい。家から少し遠いせいで無駄な出費が増えてしまった。風邪と出費のダブルパンチを喰らいながら、バスは病院前の停留所についた。バスから降りて大きく背伸びをした時––––––––––病院に入っていく、環らしき姿が見えた。停留所から病院のドアまで少し距離があるのではっきりとは見えなかったが、それでも環らしい服装で容姿だった。とりあえず出会うために急いで病院に向かった。病院は大きくてどれだけ見ても見つからなかった。そもそも30何種類もある診療科目の中からばったり会うことなど難しいに違いなかった。自分は内科の前の席に座った。やはり周りを見ても環はいないと思っていた。病院の電信音が自分の番号をアナウンスをした。診察室に入ろうとした時、横の「循環器内科」から出てくる環を見つけた。あれは環に間違いない。話すことも相手からも気づかれないまま、そのまま俺の診察が始まってしまった。
––––––––––循環器内科って、確か心臓とか血液に問題があるところで、風邪みたいにすぐに治るところじゃないよな…。俺は嫌な予感に包まれてそれからの診察のことは覚えていない。
「循環器内科」パチパチとキーボードの音が広がる。「やっぱりだ」調べてみるとやはり、心臓などに問題があると受診を勧められる診察科目だった。まだ決めつけちゃいけないとわかっていても、心配と妙な重い空気がひしひしと感じる。鼓動はどんどん早くなり嫌な汗がダラダラと流れた。
––––––––––「大丈夫だよな」––––––––––
ただ俺はその言葉しか頭に入らなかった。でもいつかは真実を聞かないといけない日が来るのだろうか。風邪と忘れるくらいの緊張感と共に1日が過ぎていった。
–––––月曜日––––––––––
「おはよー匠ぃ、風邪は治ったのか?」またしても一週間が始まる。いつも通りに匠に挨拶をして、電車で暇を潰すことを考える。「お、おはよう環、まぁぼちぼちだよ」病院のことを考えて以来、環に会うのが怖くなった。そして今日のどこかで環に聞いてみようと思った。勘違いのままで進むのも環には悪いと思うし、覚悟もできている。「な、なぁ環」緊張で声が震えた。環がこちらを向く「急なこと聞くけどよ、お前って何か病気を患っているのか?」「っ!」匠から放たれた言葉に驚く。「な、なんでそう思ったんだ?俺は見ての通り元気だよ」「いやな、病院でお前がいるとこちょうど見かけたんだよ。それも循環器内科に入るところでさ、あんまり聞いたことが…」「なんでバレたんだよ…」話の途中でそう言った。「それで、どこか悪いのか?」どうしよう…匠には知られてしまった。ずっと気づかれないようにしていたのに…「実はさ…俺、大体あと1ヶ月しか生きてられないんだ…」こわばる声でついに言ってしまった。あたりは電車の揺れる音だけが残っていた。
第三章「変化の日々」
「あと1ヶ月しか生きられないってどう言うことだよっ!」最悪な予感が当たってしまった。「俺、先天性の病気で心臓の脈が日に日に遅くなる「落拍病」っていう難病なんだ」涙を浮かべながら環はそういった。「なんだよそれ…」「本当は言いたくなかった。言っちゃうと関係が崩れちゃうし、迷惑かけるかなって…」 「治せないのか?」「うん。発症する人は本当にごく稀で、進行を遅れさせることはできても発症したら治せないんだって…」初めてだった。環がこんな顔しているところを見ているのは。重たい空気が電車の中で響く。そんな空気を切り裂いたのは環の方だった。「なぁ、残りの時間もさ前みたいに居てくれるか?」多分、病気で謙遜されたり、頭の中で病気のことを考えながら過ごしてほしくなかったんだろう。「ああ、もちろんだ。」本当は怖かった。でも強がらないと、いつもの自分を見失いそうだった。環と離れたら、すぐに歩に伝えよう。
––––––––––「落拍病…ですか?」聞いたことのない病気だった。今から大体2ヶ月前だろうか、家に居たところ急に倒れてしまった。数十秒前まで意識があったのに急になくなってしまったそうだ。「はい。本当にごく稀で、先天性の病気で、発症すると心拍が少しずつ遅くなり、最終的には血液が十分に送れなくなり、亡くなるという病気です。残念ながら今の医療技術では治すことはできません。」医者の口から絶望的な言葉が自分の耳に響く。「そう、ですか…」悲しみよりも、怒りよりも、何も感情が出てこなかった。だたすぅーと感情が抜き出されたみたいだった。あたりは真っ暗にしかみることができなかった。
帰ってからも、何も感情が浮かばなかった。医者からは、「これから定期的に診察してください。進行は遅くすることができるかもですので」と言われたが、何もやる気が起きなかった。もっと2人に居たかった、いろいろなことがしたかった。ただ、それすらできないと知った。ようやく気づいたのは怒りと、どこにもぶつけられない絶望感だけだった。
––––––––––チャイムがやっとになった。やっと授業が終わり、帰路に着く。ふと携帯を触ると環と匠からメッセージが来ていた。「環があと1ヶ月で死ぬらしい。だからい今すぐに会いにいけ」意味がわからなかった。頭の中は真っ白だった。環からは、場所だけが指定したメールが来ていた。「はぁはぁ」息が長続きしない。「もっと早く行かなきゃ」荒い息が連続する。やっと到着すると、環は凛として待っているのが見えた。「ごめん、急に呼び出して、ちょっと伝えたいことが…」「もうすぐ死ぬってどう言うことなのっ!」声を高々にして言った。息が切れていたことなんて忘れていた。「落ち着いてくれよ。」俺は全部巧みに話したことを歩に伝えた。どうして…どうして環が死ななくちゃいけないの…考えただけでも胸が締め付けらるような感覚がした。「…いやだ、嫌だ…なんで環が、環がいなくなっちゃうのっ…」ポタポタと涙の雫が溢れていった。『好き』という感情も、もう消えちゃうのかな。考えるだけでまた悲しくなった。どんどん涙の粒は大きく、そして多くなった。「歩、もう泣かないで…ねぇもう泣かないでよ…」歩が泣いているところを見ると、俺まで悔しさが浮かんできた。「ねぇ…歩?腕広げてみて?」「う、うん」そうして私は泣きじゃくりながらも腕を大きく広げた。次の瞬間。「っ!」環が、そっと私を抱きしめてくれた。環の優しいふんわりした香りが私たちを包み込んだ。環の温かみが一番近くで感じる。「ごめんな。こんな俺で、お前を悲しませて、ごめんな」私の心はドキドキだった。環にも聞こえそうなくらい、大きく脈打っていた。環から感じる脈は大きいでも私よりもずっと遅かった。嬉しかった。でもそれと一緒に嬉しいと思っていいのだろうか。嬉しいと思うと、また求めてしまうと思ってしまう。「ほんとに死んじゃうの?」もう声なんて聞き取れやしない。でも声を詰まらせてでも言うことができた。「ああ…そうだろうな」環が淡々と言う。私がみた環は、優しくて、かっこよくて、気分が落ちていても、なるべく感じ取ってもらわないようにしていたことなんて知っている。でもそんな環でも、追い込まれる自分のことしか手についてないところを考えると、やっぱり現実なんだと感じてしまう。「いかないでよ…」息苦しい。何秒経っても何分経っても、環がいなくなることを想像できなかった。「ごめんな、もうそろそろ、俺帰らなきゃいけないんだ。ありがとう聞いてくれて。」最後に感謝を伝えるところは、やっぱり環らしいと思った。「こちらこそ、教えてくれてありがとうね。」そう言って私たちはお互いの家に向けて別れた。その間も私が泣いていたのは環は知らないだろう。
––––––––––あれからずっと私は泣いていた。何かできないか考えていたけど結局は「何もできない」が答えに導かれる。環はその無力さに立ち尽くして、どんなに悔やんできたのだろう。家に着く頃には涙もいつの間にか止まっていた。バタンっとベットに倒れ込む「あと1ヶ月か…」走馬灯のように環との思い出が思い浮かぶ。学校の部活で、誰よりもはしゃいで、誰よりもスポーツに打ち込んだ環。体育祭でチームが優勝した時、誰よりも無邪気に喜んでいた環。卒業した時、誰よりも泣いて、誰よりも泣いて悲しんでいた環。どこを切り取っても環の顔は、マイナスの感情は見えなかった。ツーっとまた涙が溢れていった。
––––––––––死なないでよ、環––––––––––
第四章「特別な毎日」
「お待たせ匠たち!」「もうだいぶ待ったんだからな。あとでなんか奢れよ〜」「はいはい匠はそんな揚げ足取らないの」あのあと匠と話し合った結果、最後まで環を楽しませよう。ということになった。「あんまり遠いとこ行けねーけどよ楽しもうぜ環!」俺たちは、水族館やショッピングモール、ゲーセンなどいろいろなところに行った。弾丸旅のように全然一つ一つに時間はかけられなかったけど、それで目一杯楽しんだ。
––––––––––日もだんだんと暮れて来ている中私たちは、駅の近くのまちが全貌できるところに来ていた。「綺麗〜」パシャパシャとテンポよくシャッター音が鳴っていく。「ちょっと歩さんや何枚写真撮るんですか。」「言い方がもうおじいちゃんなんよ…」匠がすかさずつっこむ。やっぱり私たちの仲はいいんだろうな。夕日が眩しいから、目に涙を浮かべると環たちに気づかれそうで、内心結構バクバクだ。
ふと、環が「また、この景色が見れたらいいなぁ。」彼の言う言葉はどこか寂しさがあり、さまざまな含みが混ざっているような言い方だった。「そうだな、いつか見れる日が来るといいよな…」絶妙に重い空気が出来上がってしまった。「ごめんごめん、重たくしちゃって。さぁそろそろ帰ろうか」やっぱり環の前向きな姿勢は、いつみて羨ましい。そんなこと思っている匠が「環、あぁ言ってたけど、すごい目がキラキラしてたぜ。やっぱり、死ぬの怖いんだろうな。」「そうだろうね。」やっぱり、どんだけ割り切っても、死んじゃうのはいつまで経っても悲しい。「環、明日はどこに行きたい?」「そうだな…よかったらでいいんだが、一緒に『ゲームでもしないか」だろ?』匠が被せていった。「っあはは」環と匠がこちらを向く。歩は噴き出して笑っていた。「やっぱり2人は兄弟だねっ!こんなに息のあってるのはそうとしか言えないよっ」匠はムッとしていた。でも環はいうと、目をキラキラと輝かせていた。「そーいうとこだけは似てないんだからぁ」そう言ってみんなで笑って帰っていった。「それじゃあな、環。また明日」その言葉の裏にどこか、悲しみと希望が含まれているように俺は感じた。「明日も頑張れ、俺」ポツリと俺は誰にも聞かれないように励ました。
––––––––––環が息を引き取ったのは旅の三日後だった。
「環っ!環!」もう声が枯れるほど声をかけても届かない。わかってても悲しかった。涙でぐしょぐしょになりながらも病院で叫び続けた。「ダメだ歩これ以上叫んでも環は帰ってこない。環よく頑張ったな」そう涙を堪えながら呟いた。
あのあと環のお母さんが家に招待してくれた。「環ねぇ、実は最後にこんなもの残しててねぇ。」そう言って、一つのだし巻き卵を出してきた。「っ!」匠は驚いているようだ。「卵焼きなんて、いっつも作らないのに、なんでたっちゃんたちと遊びにいった日から毎日作ったんだろうねぇ」「多分、最後の生きてる証を残したかったんじゃないですかね。俺がいっつも環のだし巻き卵一つもらってたんで…」匠は、涙声で言い返した。「それ、食べてもいいですかね?」「もちろんよ」
「いただきます」匠は一切れ食べた。「やっぱりこの味だよなぁ」匠はポロポロと涙をこぼして食べていた。「私も食べてみよう」出汁のきいた味の奥にどこかやさしさが含まれていた。初めて食べた味なのに、懐かしさを感じた。そんなことを思っていると私も泣いていた。「しょっぱいなぁ、このだし巻き卵。どんだけ味付け間違えたんだよ…」そう言って私たちはずっと泣き続けることしかできなかった。
どんだけ料理がうまくても、優しくてもやっぱり
––––––––––––––––––––完璧な人は居ないと痛いほどに感じた––––––––––––––––––––
遅くなっていく君に送りたいこの言葉
遅くなっていく君に送りたい言葉 汐風 咲 @rin743
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