第9話 深まる疑念

 夜、リチュは孤児院から出て森を歩く。途中で緑色の背中に青い目、白いお腹をした鳥の魔物ナイトバード達がリチュを見つけて近寄る。


「今日はほとんど液体だったから少なくて申し訳ありません。」


 リチュは体からアイスウルフの肉を取り出し地面に置く、ナイトバード達はそれをつつきながら食べ始める。リチュはその光景をしばらく見てスライムの村に向かって歩き出した。

 村に着くと少数のスライム達がリチュの方に近寄る。最初は多くのスライムが来ていたのだが朝昼晩全て活動しないといけなくなるため、スライム達がリチュから聞いた人間の動きを参考に、昼に建物の製造や森に物品改修する者と夜にリチュから話を聞き、それを朝早く活動するスライムに報告する者に分かれて生活をし始めた。


 スライム達は同時にリチュに「キョウハナニオシエテクレルノ?」と教えを問う。言葉もリチュが教えたもので発音はいびつながらもあまりにも早い間に人間族の言葉を使えるようになったスライム達にリチュは驚いたこともあった。


「今日は魔法について教わりました。」


 リチュはスライム達に魔法の使い方を見せながら教える。ただ正確には人間族と同じではなくリチュの『一度マナを体内に入れてそれを吐き出して使う魔法』のやり方を教える。それに加え、マナを飛ばす動きを変えることで様々な魔法に変わる為人によって同じマナを使っても人によって魔法の形や使い方が変わることも教えた。

 スライム達はリチュに魔法を教わってすぐに試そうとしたが、元々いた場所に多いマナを回収するので手いっぱいで他のマナを集中して回収するのは難しそうだった。とはいえスライム達が魔法を習得するのに一時間もかからなかった。一匹が成功したのを見て同じ色のスライムがそのスライムにやり方を教えてもらう、を繰り返すことで今いるスライム達は皆魔法を使えるようになった。同じ色のスライムに教わるをしていた為赤色のスライムは火の粉を出す、青色のスライムは水鉄砲程度の水を発射する、緑色のスライムは傷の再生力を少し早める、黄色のスライムは黄色の土の塊を出す魔法で固定になった。


「それでは、そろそろ孤児院に戻ります。」


 リチュは再び人間の姿に戻りスライムの村から出る。村を出発した時点で日が昇り始めていた為リチュは早足で村まで移動する。

 孤児院について中に入るとリズが壁を背にして腕を組みながらリチュを睨んでいた。


「こんな夜更け…もう日も登り始めてるが。こんな時間にお出かけとはどうしました?」


 リチュはその目に怯えつつも笑顔を作りながら「眠れなかったものでお散歩に…」とごまかして自分の部屋に戻る。


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「では我々はこれで失礼します。」


「今回もありがとうございました。」


 夜が明け騎士達と孤児院の職員は互いにお辞儀をして孤児院を出る…途中で「そういえば…」とリードが足を止めて、振り向く。


「最近子供の行方不明が続出しています。噂にはなってしまいますが『誰かが子供を誘拐している』なんて話もありますので子供達をなるべく森の奥に行かせないようにしてください。」


 マザムはリードのその言葉に「は、はい分かりました。」と答える。それを聞きリズが言葉を付け加える。


「それ以外にももうすでにどこかに潜んでいてもしくは人間に化けて、誘拐するタイミングを計っているなんて可能性もありますので十分気を付けてください。」


 その言葉の後リズはリチュを見る。リードの「そんな不要に不安にさせるようなことを言わなくてもいいだろ。」という言葉すら届かない程リズはリチュの表情を真剣に見た。

 リチュはリズの言葉に緊張した顔をしていた。その顔を見てリズは孤児院から出た。


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「おい、タンク。見たかやつの顔。

 やっぱり怪しいぜ。あいつ。私の発言に顔をこわばらせたフリまでして、汗すら出せてなかったがな。」


「おい!お前まだそんなことを!!」


「なんの話をしているのだ?」


 リードは喧嘩をしているリズとタンクの方を見て疑問を言う、リズはそれに対して答える。


「今日始めていたリチュってやつが居ただろ?あいつが人間じゃない可能性があるんだ。魔法を使うときに目の色と神の色が変わっていたり、マナの色が見えるって発言していたり到底人間とは思えない。

 だからあいつが孤児院に忍び込んで子供を誘拐するタイミングを狙ってるんじゃないかって私は疑っているんだ。」


「だから彼女はそんなことをする人ではないと…」


 リズは抗議するタンクの言葉に「タンクは黙っていろ。」と言って止める。

 リードは少し考えて自分の意見を言う。


「確かにその可能性は否定できない。彼女は桁外れの戦闘能力をしていたしな。

 だがそれだけの理由で彼女を誘拐犯と断定するのはあまりよろしくないと思う。」


 その言葉にリズは「そうかよ。」と頭をかく。


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「『ああ、可哀そう可哀そうなのじゃ。』」


 金髪の少女が頭を抱えながら嘆きの声を出す。彼女は日に焼かれたことがないような白い肌でルビーのような真っ赤な目をもち、巨大な蛇の下半身を持つ怪物だった。

 そんな怪物の後ろの空間が突如割れ『モルガナ』が姿を現す。


「『うるさいですね。どうかしたんですか?『エキドナ』さん。』」


『エキドナ』と言われた女性は『モルガナ』を見ると彼女の元に勢いよく近ずく。


「『お主知らんか?体がブリザードウルフ、顔がゴブリンナイト、尾はケットシーでナイトメアバードの羽を持つキメラを…』」


「『ああ、いたなぁ。そんなのも。』」


『モルガナ』は『エキドナ』から離れそう答えるが『エキドナ』はそれでも『モルガナ』に近寄る。


「『あの子がここ一年間ずっと迷子での。妾はそれが心配で心配で夜も眠れないのじゃあ。

『モルガナ』ちゃんなら我が子の問題を解決できんかの?』」


「『追ってくんなよ!!』『分かりましたよ時間があれば解決策も考えますよ。』

『あ!そういえばアンタに面白い話持ってきたんだった。』」


 突如話を変える『モルガナ』に『エキドナ』は彼女を追いかけるのをやめる。


「『ここ最近人間の村に潜んで人間の知識を盗んでいるスライム族がいるんだよねぇ。』『貴方ならこういう魔物の話好きでしょう?』」


 その話に『エキドナ』は「『ほう?』」と目を細める。

 突如『エキドナ』の寝床から人間の子供の泣き声が響く。


「『うっせぇなぁ?』『ここにいると頭が痛くなりますので私はこれにて帰りますね。』」


 そう言って空間の割れ目に消える『モルガナ』を見届けた『エキドナ』は奇妙な笑みを浮かべ泣き声を上げる子供の方へ行く。

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