第8話 怪物

 私はリズさんの元を離れて孤児院の中に戻ろうとした。

 村に入る途中、タンクさんが大量の丸太を運んでいたのが見えた。


「あれ?タンクさんは何をしているのですか?」


「む?ああ、えっと…リチュさんか…

 俺は職員に言われ風呂を温めるのに使う木材を運んでいる。」


「おお~。手伝います。」


 そういって私はタンクさんの持っている丸太を半分持った。


「おっと…リチュさん力持ちだな。」


 この人が持っていた数の半分なんだけどなぁ…


「タンクさんは子供達になにか教えたりしないんですか?」


 私は丸太を運びながらタンクさんに聞く。タンクさんは静かに答える。


「俺は口下手だからな、顔もいかついし子供達が怖がってしまうんだ。それに、俺の役回りはリードさんやリズと違って裏方だから俺に憧れる子供がいないんだ。」


「裏方ですか?その腰にある巨大な斧でお相手をボコボコにするとかじゃないんですか?」


「いや、俺の役回りは基本的に仲間を守るための盾になることだ。」


「仲間を守る…ですか?重要な役割じゃないですか!!その方法教わりたいです。」


 私がタンクさんに詰め寄って教えを乞う。タンクさんはそれに対して私から距離を置きながら答える。


「あ、ああ。分かった…分かったが、まず危ないからこの丸太を片付けてからにしよう。」


「ありがとうございます。」


 私達は孤児院の外の倉に丸太を置き森へと移動した。森には私とタンクさんだけしかおらず私はタンクさんに向き合って話を聞く。


「人に教えたことがないから下手だったらすまないが、仲間を守るために行うことは相手の注意を引くことだ。」


「注意を引く?」


 仲間を守るというから仲間の前に出て攻撃を受け止めるとかかと思っていたけどそういうのではないらしい。


「そうだ、守るべき仲間が複数人いたり敵が多いときはこの重たい鎧を着ながら走り回ることは難しいからな。敵側からこちらを攻撃するように仕向ける。」


「どのようにですか?」


「俺のやっていることだが大きな音や振動を出すことだ。」


 そういうとタンクさんは大斧を大盾に叩きつけ大きな音を出す。私はその音に驚いてしまい飛び上がる。


「すまない、だがまぁこうやって音をだせば注意を引くことができる。

 そして注意を引くだけが役割ではない。注意を引いた相手を威圧することで動きを止めるのも俺の役割だ。」


「威圧して動きを止める…ですか?」


「ああ、例えばリズだがあいつは巨大な魔法を使えるがその為にはその分マナを集める時間を要する。

 その間動きを止めることが出来れば狙いも定めやすくなるし、リズのことも己のことも守ることもできる。

 鎧で守っていても大勢で一度に攻撃されては敵わないからな。」


 威圧…体を大きく見せれば威圧できるかな?


「なるほど、勉強になります。」


「い、いやこれでいいなら良いのだが。」


 タンクさんが照れくさそうに自分の後頭部を撫でる。その時森からリズさんが出てくる。


「孤児院にいないと思ったら何してんだタンク。」


「リズ⁉」


「タンク、お前こういう女性が好みなのか?なんだ?胸か?いっつも一緒にいる私の胸がこの通りだから胸の大きな女が好みだったりするんか?」


 リズさんがタンクさんに問い詰めるように詰め寄る。胸?そういえばリズさんって女性だけど胸が大きくなかったな。孤児院の子供の女性も胸が小さかったし、リズさんも子供なのかな?


「いや、違うぞ。俺はただ…」


「うるさいタンク!黙って来い!!」


 リズさんはタンクさんの腕を引っ張って森の方に行ってしまう。


 ——————————


「おい、なんだリズ!お前そんなに自分の胸にコンプレックス抱いてたか?」


「そんなもんねぇよ。そんなんだったらマザムさんの時でもこうなるだろ。

 お前をあいつから放す口実だよ。」


 リズはタンクの腕を放し言う。


「どういうことだよ?」


「あいつ、人間じゃないかもしれない。」


「なんでそう思うんだ?」


 タンクの質問にリズはタンクの方に振り向き答える。


「あいつの目って何色だったか覚えてるか?」


「青色だろ?」


「ああそうだ。だがあいつが魔法を使うとき髪と目が赤くなったんだ。当然今までいろんな魔法使いを見たがそのような現象は見たことが無い。

 それにやつはマナの色が見えると言った。お前も知っているだろうが人間の目にマナを見ることは出来ない。今まで目を疑ったことも耳を疑ったこともあるが、自分の目と耳を同時に疑ったのは初めてだよ。

 もしかしたらあいつが最近話題の…」


「まさか!彼女は仲間を守る手段を真剣に聞くぐらい優しい人だぞ!」


 怒鳴るタンクに対してリズは冷たい目をして言う。


「ま、お前が誰を好きになろうが構わないが。

 あいつだけはやめておけ、仲間として注意をしておこうと思ってな。」


 そういってリズは森から出ていった。

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