第44話:守りたいもの
「そう…思ってる人もいるんだよね、」
涙をこらえながら言った。
隠してもどうせバレてしまうんだろうし、それなら正直に言った方がいい。
それに、兄ちゃんには本当のことを知っててほしかった。
「なんで、美月は被害者でしょ?」
お兄ちゃんは驚いたように眉をひそめた。
その表情に、少しだけ安心した。
「自作自演なんだって」
私は視線を落とし、涙をこらえながら答えた。
胸が締め付けられるような気持ちになった。
自分がそんな風に思われていることが、悲しくて仕方なかった。
「誰がそんな馬鹿なこと…」
お兄ちゃんは困惑した表情を浮かべた。
お兄ちゃんが信じてくれていることが、私にとって唯一の救いだった。
「だけど、そう思われても仕方ないかなって、」
彼女の目に私が怪しく映る理由も分からなくはない。
被害者である私が、一番犯人を知りたいはずなのに、犯人探しはしたくないなんて。
自分の行動が誤解を招いていることは理解していた。
分かっていながら犯人を突き止めようとしない私も私だ。
「どうして?」
犯人探しをしたくない理由を言ったら…お兄ちゃんはどんな顔をするだろう。
馬鹿だって、お人好しだって、呆れちゃうかな、
「私が…犯人探しをしようとしないから」
他の人が疑われるくらいなら、自分が犯人だと疑われてもいいと思った。いや、むしろその方がよかった。
「犯人が誰か知りたくないの?」
知りたい。
どうしてあんなことしたのか。
私の何が嫌いでこんな事件を起こしたのか。
犯人の気持ちを知りたかった。
「正直に言うと、知りたい」
お兄ちゃんの目を見つめながら答えた。
自分の気持ちを正直に伝えることができて、少しだけ心が軽くなった気がした。
「それじゃあどうして、」
お兄ちゃんは理解してくれるだろうか。
「ただ、犯人探しをすることでクラスの仲が悪くなるのが嫌なの。他の人が疑われるくらいなら、私でいい」
私が犯人だと疑われるのはもちろん嫌。
だけど、
それよりも、疑心暗鬼になって友達を責めて、クラスの仲が悪くなるのが嫌だった。
自分のことよりも、クラスの仲を守りたかった。
「それで自分が犯人だって疑われてもいいの?」
お兄ちゃんの問いに、私は小さく頷いた。
「うん。それでいい」
「そっか」
お兄ちゃんは少し困ったような表情を浮かべた。
「…馬鹿だよね、」
「どうして?」
「自分のことを陥れようとしてる人を庇うなんて、馬鹿だって自分でも分かってる」
お兄ちゃんは少し考えた後、優しく微笑んで言った。
「そんなことない。他人を思いやれることは馬鹿なことなんかじゃない。その選択ができた美月は強くて素敵だよ」
お兄ちゃんの言葉に、その優しさに、胸が温かくなった。
お兄ちゃんが私の気持ちを理解してくれていることが、嬉しかった。
「お兄ちゃん…」
お兄ちゃんの優しさが胸に染み渡った。
「美月は何も心配しないで」
お兄ちゃんはそう言って、私の肩に手を置いた。その手の温もりが、心に安心感を与えてくれた。
「え?それってどういう…」
私は驚いたようにお兄ちゃんの顔を見上げた。
その言葉の意味が分からず、心が揺れ動いた。
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