第33話:不安の序章

劇が始まるまで舞台裏で待機していた。


舞台の裾で観客席が埋まるのを、ただずっと見ていた。


観客が増えるたびに、心臓がドクドクと高鳴るのを感じた。


緊張と期待が入り混じり、胸の中で渦巻いていた。


「照明、ちゃんと点検したよね」


監督が心配そうに尋ねた。


昨日のアクシデントが頭をよぎる。


あの時の混乱が再び起こるのではないかという不安が胸を締め付けた。


「うん。問題なかったよ」


照明担当の友達が自信を持って答えた。


「良かった」

監督はほっとした表情を見せた。


その様子を見ていたクラスメイトたちが話し始めた。


「昨日はびっくりしたね」

一人が笑いながら言った。


「だね」


昨日、リハーサルの練習でアクシデントが起きた。


___



「次のシーン、行きます!」


監督の声で私たちは舞台に立った。


心臓がドキドキしていた。


舞台に立つだけで頭が真っ白になった。


リハーサルでこんななら、明日の本番じゃどうなってしまうんだろう。


そんな不安が頭をよぎった。


「美月、準備はいい?」


蒼大が優しく尋ねてくれた。


その声に少しだけ勇気をもらった。


「うん、大丈夫」


私は頷いた。


自分に言い聞かせるように。


心の中で何度も"大丈夫"と繰り返した。


シーンが進み、私が魔法を使う場面に差し掛かった。


「光よ、私に力を貸して…」


その瞬間、


突然照明がチカチカと点滅し始めた。


心臓が一瞬止まったように感じた。


「え、何、これ?」


私は驚いて立ち止まった。


何も聞いてないけど、演出…じゃ、ないよね。


頭の中が混乱していた。


「照明が故障したみたい!」


音響担当の友達が叫んだ。

その声に、少しだけ冷静さを取り戻した。


「何これ、大丈夫なのかな」


クラスメートの一人が不安そうに呟いた。


心臓がまたドキドキしてきた。


「みんな、一旦落ち着いて!」


監督が指示を出したが、照明のトラブルで舞台は混乱状態に。


私はどうすればいいのか分からず、ただ立ち尽くしていた。


「大丈夫、すぐに直すから!」


照明担当の友達が急いで対応し始めた。


その間、私たちは舞台の端に避難し、状況を見守った。


心臓の鼓動が少しずつ落ち着いてきたが、完全には戻らなかった。


「美月、大丈夫?」

蒼大が心配そうに声をかけてくれた。


「うん、びっくりしたけど大丈夫」


数分後、照明が正常に戻り、練習を再開することができた。


私は深呼吸をして、再び舞台に立った。



みんな、ただの故障だと思っていた。




まさか、あんな事が起きるなんて…。






この時の私はまだ知りもしなかったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る